研究課題/領域番号 |
23659588
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
細井 義夫 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (50238747)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 放射線 / 活性酸素 / ATM |
研究概要 |
癌にも幹細胞があり、ニッチと呼ばれる特殊な微小環境に存在し、G0期で低活性酸素状態にあって放射線治療と化学療療法に抵抗性を示すことが報告されている。このため、根治治療のためには癌幹細胞を標的とした治療を考える必要がある。放射線高感受性と細胞周期チェックポイント異常を示す遺伝病 毛細血管拡張運動失調症(ataxia telangiectasia, AT)の原因遺伝子ATMのノックアウトマウスにおいて骨髄等の幹細胞枯渇と活性酸素上昇が報告されていることから、ATMが幹細胞のG0期での細胞周期停止と低活性酸素状態の維持に寄与していると考えられる。本研究では、ATMがそれらに関与する情報伝達経路を明らかにし、ATM阻害またはその情報伝達経路阻害による放射線抵抗性なG0期癌細胞・癌幹細胞に対する放射線増感法を開発することを目的とした。今年度はATMを直接活性化することが報告されている活性酸素種であるH2O2を用いて実験を行った。放射線や活性酸素に対して感受性が高く、アポトーシスを起こしやすいために細胞の生死を迅速に定量できるMOLT-4細胞を用いて基礎的実験を行った。MOLT-4細胞のH2O2によるアポトーシス誘導感受性を決定した。MOLT-4は50μM以上の濃度でアポトーシスの誘導が起こり、200μM以上で致死率はほぼ一定となった。アポトーシスはH2O2を細胞上清に投与してから5時間後から生じた。放射線5Gy照射と200μMのH2O2で処理後のATMのタンパク質量とSer-15のリン酸化を調べた結果、放射線照射とH2O2処理によりATMタンパク質量に変化は認められなかったがATM Ser-1981のリン酸化の亢進が認められ、ATMが活性化することが示された。ATMの基質であるp53 Ser-15のリン酸化も亢進しp53の活性化が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は福島第一原子力発電所事故の発生により、延べ20回以上福島支援のため、現地に赴き、延べ70日以上福島に滞在した。このため、実験内容を変更せざるを得なかった。しかし、今後の実験のための基礎的実験を行う事ができた。また、予備的実験ではあるが、主に細胞質内に存在するH2O2の消去酵素であるPerosiredoxin 1を細胞に過剰発現させるとH2O2によるアポトーシス誘導効果やATM・p53の活性化が起こる事を明らかにしている。これらは、活性酸素によるATM活性化の機序を考える上で重要である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は福島第一原子力発電所事故の発生により、延べ20回以上福島支援のため、現地に赴き、延べ70日以上福島に滞在した。平成24年度においては福島支援はだいぶ落ち着いているので、研究にほぼ専念できる予定である。平成24年度は平成23年度の研究を継続するとともに、当初の計画を実行する。G0期細胞の放射線抵抗性に対するATMの関与に関して実験を行う。実験には、transformしていないヒト線維芽細胞及びマウス線維芽細胞、無限増殖能を有するがcontact inhibitionのかかるマウスm5s細胞を用いる。放射線感受性は、増殖死を評価するためのコロニー形成法とアポトーシスを評価するための色素排除法を用いて決定する。contact inhibitionが作用する完全にconfluentな状態とgrowth phaseな状態の細胞の放射線感受性の違いが、ATMが機能している状態で認められATMが機能しない状態で認められなければ、G0期細胞の放射線抵抗性の原因はATMによることが強く示唆される。ATM阻害またはATM(-/-)の状態は以下の(1)-(3)の方法に行う。なお、細胞周期解析はFACSで行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も消耗品を中心に研究費を使用する予定である。ATMのノックアウト細胞とそれにATM遺伝子を戻した細胞を購入する計画である。また、ATMを含めたDNA2重鎖切断修復酵素の活性を調べられるリン酸化抗体も多数小丹生する必要がある。これらの他は細胞培養実験に持ちいるディッシュや培地の購入に充てる予定である。
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