研究課題/領域番号 |
23659588
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
細井 義夫 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50238747)
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キーワード | 放射線感受性 |
研究概要 |
癌にも幹細胞があり、ニッチと呼ばれる特殊な微小環境に存在し、G0期で低活性酸素状態にあって放射線治療と化学療療法に抵抗性を示すことが報告されている。このため、根治治療のためには癌幹細胞を標的とした治療を考える必要がある。放射線高感受性と細胞周期チェックポイント異常を示す遺伝病 毛細血管拡張運動失調症(ataxia telangiectasia, AT)の原因遺伝子ATMのノックアウトマウスにおいて骨髄等の幹細胞枯渇と活性酸素上昇が報告されていることから、ATMが幹細胞のG0期での細胞周期停止と低活性酸素状態の維持に寄与していると考えられる。本研究では、ATMがそれらに関与する情報伝達経路を明らかにし、ATM阻害またはその情報伝達経路阻害による放射線抵抗性なG0期癌細胞・癌幹細胞に対する放射線増感法を開発することを目的とした。ATMを直接活性化することが報告されている活性酸素種であるH2O2を用いて実験を行った。細胞としては、放射線や活性酸素に対して感受性が高く、アポトーシスを起こしやすいために細胞の生死を迅速に定量できるMOLT-4細胞を用いて基礎的実験を行った。MOLT-4は50μM以上の濃度でアポトーシスの誘導が起こり、200μM以上で致死率はほぼ一定となった。さらに、ATM、Chk2は50μM以上のH2O2で活性化し、p53とγH2AXは100μM以上のH2O2で活性化した。ATMは主に核、ミトコンドリア、peroxisomeに存在し、50μMのH2O2ではミトコンドリアに存在するATMのみ活性化し、Chk2が活性化した。また、放射線照射した場合には、ミトコンドリアと核に存在するATMが活性化し、Chk2、、γH2AX、p53が活性化した。以上のことから、ミトコンドリアに存在するATMは核に存在するATMとは別の機能を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年1月1日より広島大学原爆放射線医科学研究所から東北大学大学院医学系研究科放射線生物学分野に異動した。このため、平成24年11月から平成25年2月に至るまで、実験機器等等の移動や、東北大学でのラボのセットアップのために実験の進行に遅延がみられた。しかし、ATMが核でDNA2重鎖切断の修復に関与するだけではなく、少なくともミトコンドリアに存在して、活性酸素(H2O2)や抗酸化能に何らかの関与をしていることを明らかにできた。これは、非常に大きな発見で、ATMがDNA2重鎖切断の修復だけでなく、活性酸素の処理に何らの関与をしていることが示唆する。また、ATMが幹細胞維持や活性酸素抵抗性に関与しているとするこれまでの報告に合致するもので、極めて意義深い。このため、実験結果としては、おおむね順調に進展していると判断とできる考える。
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今後の研究の推進方策 |
ATMは核の他にミトコンドリアとperoxisomeに存在することを明らかにした。また、ATMがミトコンドリアで放射線と活性酸素により活性化することを明らかにした。今後の研究の推進方針としては、ミトコンドリアでのATM活性化機構とミトコンドリアでのATMの機能を解明し、peroxisomedeにATMが集まっている理由を解明する。ミトコンドリアにはDNAが存在するがperoxisomeにはDNAが存在せず、しかも多様な物質の酸化作用を担っていることを考えると、ATMが抗酸化能に関与している可能性は極めて高い。ATMと酸化能やH2O2感受性との関係、peroxisomeやミトコンドリアに存在するATMと放射線感受性との関係を明らかにする方向で研究を進め、幹細胞の放射線抵抗とATMとの関係を探求する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、実験補助員を採用し研究を効率的に進める。AT患者由来の細胞やATMノックアウトマウス由来の細胞を用いて、抗酸化能とATMとの関係を解明するが、AT患者由来細胞やATMノックアウト由来細胞は既に所有しているので、研究費は主に抗体等の購入に用いる。平成24年度に未使用金が発生したのは、主に東京電力福島第一原子力発電所事故の発生によるためである。私は平成24年12月31日まで広島大学原爆放射線医学研究所に所属しており、広島大学緊急被ばく医療センター副センター長として緊急被ばく医療を担当していた。平成23年3月12日以降は、文部科学省の直接の指示により国の三次被ばく医療機関の一員として被ばく医療にかかわる活動を行った。また、平成24年8月以降は、原子力安全委員会並びに原子力規制委員会の専門委員会委員として、新しい被ばく医療体制の構築にあたった。これに加え、平成25年1月1日からは東北大学に異動となったため、実験の速度は若干遅れ、未使用金が発生した。しかし、平成25年4月1日以降は、東北大学で新規の助教と実験補助員を採用し、また以前から在籍していた助教も加わり、研究体制は整っている。
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