研究課題
癌にも幹細胞があり、ニッチと呼ばれる特殊な微小環境に存在し、G0期で低活性酸素状態にあって放射線治療と化学療療法に抵抗性を示すことが報告されている。このため、根治治療のためには癌幹細胞を標的とした治療を考える必要がある。放射線高感受性と細胞周期チェックポイント異常を示す遺伝病 毛細血管拡張運動失調症(ataxia telangiectasia, AT)の原因遺伝子ATMのノックアウトマウスにおいて骨髄等の幹細胞枯渇と活性酸素上昇が報告されていることから、ATMが幹細胞のG0期での細胞周期停止と低活性酸素状態の維持に寄与していると考えられる。本研究では、ATMがそれらに関与する情報伝達経路を明らかにし、ATM阻害またはその情報伝達経路阻害による放射線抵抗性なG0期癌細胞・癌幹細胞に対する放射線増感法を開発することを目的とした。ATMを直接活性化することが報告されている活性酸素種であるH2O2を用いて実験を行った。細胞としては、放射線や活性酸素に対して感受性が高く、アポトーシスを起こしやすいために細胞の生死を迅速に定量できるMOLT-4細胞を用いて基礎的実験を行った。MOLT-4は50μM以上の濃度でアポトーシスの誘導が起こり、200μM以上で致死率はほぼ一定となった。さらに、ATM、Chk2は50μM以上のH2O2で活性化し、p53とγH2AXは100μM以上のH2O2で活性化した。ATMは主に核、ミトコンドリア、peroxisomeに存在し、50μMのH2O2ではミトコンドリアに存在するATMのみ活性化し、Chk2が活性化した。また、放射線照射した場合には、ミトコンドリアと核に存在するATMが活性化し、Chk2、、γH2AX、p53が活性化した。以上のことから、ミトコンドリアに存在するATMは核に存在するATMとは別の機能を担っている可能性が示唆された。これらの研究成果は2014年にBBRC誌で公表した。
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