研究概要 |
p53の機能を失った細胞は、低線エネルギー付与(LET)放射線によって誘発されるアポトーシス出現頻度が低く、放射線抵抗性を示すことが知られている。「低LET放射線であるX線と高LET放射線である鉄線とを比較することにより、放射線照射後に誘導される生存シグナルに関わるタンパク質の細胞内蓄積量とその活性度合いを解析すること」を目的とした。p53変異型保有ヒト歯肉扁平上皮がん細胞(Ca9-22)を用い、X線(1.7KeV/μm)および鉄線(200KeV/μm)を等線量の2 Gyで照射し、照射後1, 2, 3, 6時間にサンプルを回収した。その後、タンパク質抽出した後、生存シグナル関連タンパク質の蓄積量および活性の変動を、Western blot法にて分析した。細胞周期は、X線および鉄線の等線量2 Gyと等生存率のX線7 Gyを照射し、フローサイトメトリーにて分析した。 放射線照射によって、Akt-mTORシグナル系に関連するタンパク質量およびそれらの活性は照射後2-3時間にはいずれも減少していた。X線の場合よりも鉄線を照射した場合の方がAkt、リン酸化Akt、mTOR、リン酸化mTOR, rpS6、リン酸化rpS6、Survivinいずれの生存シグナルに関わるタンパク質が量および活性が効率的に減少していた。一方、細胞周期はX線2 Gy照射24時間後で細胞周期の停止が認められなかったが、鉄線2GyおよびX線7 Gy照射では共に同様の経時的変化を示し、照射後24時間にはG2/M期停止が観察された。 高LET放射線である鉄線が低LET放射線であるX線よりも効率の良いp53非依存的アポトーシス誘導をもたらすしくみは、Akt生存シグナル経路を効率的に抑制することによるものと考察され、がん治療効果をさらに高めるために貢献できると期待された。
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