研究概要 |
悪性脳腫瘍に対する近年の高線量放射線治療の進歩はその治療成績の向上に寄与しているが、症候性脳放射線壊死が大きな問題となっている。本研究では遅発性脳放射線壊死という診断でnecrotomyを行った臨床組織標本の解析を通じて、本病態の機序の解明を目的とした。 過去5年間に大阪医科大学で壊死巣除去を行った18例の病理組織を検討した。放射線治療を受ける原因となった腫瘍は、悪性神経膠腫、悪性髄膜腫、転移性脳腫瘍、頭頸部癌など様々であり、また用いた放射線治療も通常のX線分割照射、ガンマナイフ等の定位放射線治療、陽子線、ホウ素中性子捕捉療法等である。組織学的検索は通常のH&E染色、抗VEGF、抗HIF-1α、抗GFAP、抗KP-1、抗CXCL12,CXCR、抗IL-1α抗体を用いた免疫組織染色を行った。 もとの腫瘍型や用いた放射線治療法の異なる壊死巣でも壊死巣周囲の壊死巣辺縁領域に、拡張した毛細血管様の新生血管(telangiectasia)を認め、共通した組織像を示していた。この拡張したtelangiectasia周囲間質には血漿成分の漏出によると思われる浮腫を認め、これが脳放射線壊死における脳浮腫の原因と考えられた。壊死巣辺縁領域ではGFAP陽性の反応性アストロサイトと思われる細胞がVEGFを産生し、その周囲に血管新生を認めていた。これらの変化は18例全例で認め、元々の腫瘍型や放射線治療の種類を問わなかった。更には、虚血性転写因子HIF-1αの発現も壊死巣辺縁領域で亢進していた。さらには反応性アストロサイトはCXCL12を、KP-1陽性マクロファージはCXCR4とIL-1αを発現し、血管新生のみならず、炎症が放射線壊死の病態に深く関与していることが示唆された。
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