研究課題/領域番号 |
23659601
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研究機関 | 独立行政法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
梅田 泉 独立行政法人国立がん研究センター, 臨床開発センター, 室長 (40160791)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 分子イメージング / 分子標的薬 / 治療最適化 / 個別化医療 |
研究概要 |
本課題は分子標的薬が薬理効果発現に至る過程(標的への結合→反応の惹起→細胞増殖などの停止、低酸素状態の改善など)を非侵襲的に可視化する技術を開発し、それによって正診率の高い感受性予測および治療効果判定を目指すものである。初年度は主に以下の3項目について検討を進めた。1)動物腫瘍モデルで腫瘍内部での反応をSPECT装置を用いて高い空間分解能でin vivo可視化するためその必要条件を検討し、最適化した。2)分子標的薬の標的結合能等の可視化: 当初、血管新生阻害薬ベバシズマブを対象とし、VEGFレセプタ分布局在やVEGF動態の可視化をVEGFペプチドや抗体タンパク質をプローブ候補として検討した。しかしin vivo での体内動態検討に十分な量が得られないと判断したため、プローブ候補を低分子化合物に変更し、有機合成を行うこととした。種々の検討の結果、対象をEGF受容体阻害薬に変更し、その作用部位であるチロシンキナーゼ活性部位への結合能を評価できるプローブを設計し、現在合成を進めている。ゲフィニチブなどEGF受容体阻害薬は著効例でもほぼ例外なく耐性化することが知られており、この耐性化の判断も可能な系の構築を試みている。3)腫瘍内低酸素状態可視化の検討: 低酸素状態特異的に集積する新規メタボリックトラップ型99mTc標識プローブの開発を進めた。リガンド部位にニトロ芳香族を組み込み、低酸素下でのみ還元され、水溶性の高い錯体へと変化して細胞内に捕捉される分子設計を施した。設計に基づき種々の化合物を合成し、低酸素下での細胞集積性をスクリーニングした結果、99mTc-SD32が最も優れた低酸素集積性を示した。細胞溶解液中に99mTc-SD32の還元代謝物を確認し、分子設計通りの集積を証明した。今後はin vivoでの低酸素環境イメージング、および薬剤治療に対する応答を検討の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は分子標的薬の標的認識とそれに対する生体反応の両方を可視化することで患者個々の薬効の有無を評価しようとするもので、従来にはない新しい試みであり、もともと進行予定が立てにくい研究課題である。 初年度は、腫瘍内部での反応をSPECT装置を用いて高い空間分解能でin vivo可視化するための条件を最適化した上で、生体反応のひとつである低酸素状態を可視化しうるプローブを開発できた点で大きな進展があった。しかしながら、薬剤の標的認識可視化プローブの開発に関しては、プローブとして必要な量が得られないなどの点から、計画を変更して新たな化合物の合成にとりかかった。そのため、当初計画より若干進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
分子標的薬の標的認識とそれに対する生体反応の両方を可視化することで、個々の患者における薬効の有無を評価するという基本概念を保持しつつ、対象とする分子標的薬をEGFR阻害剤として、主に肺癌モデルで検討を進める。次年度には、23年度にやり残した実験計画を遂行すると共に、当初の24年度計画を実施し、研究目的の達成を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度はプローブの合成に手間取ったことから、細胞や動物を用いた実験が予定より少なく、そのため、予算に未使用額が生じた。次年度には23年度に未実施の実験を含めて研究を遂行する予定であり、次年度研究費は、主に遺伝子改変がん細胞作成や、実験動物、放射性物質などの試薬、実験器具の購入にあてる。また、得られた成果を学会発表や論文発表するにあたっての諸費用も計上する。
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