当初、予備実験で成功したフマル酸のC-11標識体の合成法はブロモ酢酸をカップリングする方法であるが、反応速度が遅いため合成に成功してもC-11の半減期が短いため放射能が減衰し臨床応用には不向きであった。 そこで、まず、フマル酸のC-11標識体の合成法の改良に着手した。 安定同位元素C-13の標識体についてはtert-ブチルエステルの塩化銅を用いたカップリング反応による合成が報告されている。 しかしながらこの方法をC-11標識に応用することは、導入後の工程が長いこと、厳密な無水条件が必要なことからPET薬剤合成用の自動合成装置による標識反応には適さないと考えた。そこで、プロペニルマグネシウムブロミドが市販されていることに着目し、グリニャール反応によりC-11を導入した後、得られたクロトン酸を酸化することを検討した。現在、中間生成物の合成までは成功したものの、最終産物の合成には至らず、化学合成メーカーに合成を委託したところコールドのフマル酸合成法には成功し、近日中にホットによる合成法の確立が見込まれている。 そこで、C-11フマル酸の新合成法確立については今暫く時間がかかることが予想されるため、フマル酸代謝の前駆物質であるリンゴ酸における放射性物質による標識法の開発を試みた。 リンゴ酸がキレート剤としての性質を持つことに着目し、陽電子放出核種であるCu-62によるリンゴ酸の標識を試みたが、標識率が思ったより悪いこと、及び、Cu-62の半減期が短いため実際の実験には不向きであった。 次に、Tc-99mによる標識を試みた。Tc-99mは陽電子放出核種ではないためPET製剤としては不向きであるが、SPECT製剤としての実績はある。リンゴ酸粉末に過テクネシウム酸ナトリウム溶液を加え5分間インキュベートしたところ、リンゴ酸テクネシウムの合成に成功した。今後、これを用いて動物実験をする予定である。
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