研究課題/領域番号 |
23659625
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
八木 洋 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (20327547)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | SIRS / 大動物 / 間葉系幹細胞 / 急性膵炎 / 細胞移植 |
研究概要 |
本研究は、難治性の急性全身性炎症に対して、これまで数々の報告と我々の研究成果から抗炎症性効果を発揮することが期待される間葉系幹細胞を細胞移植することによる、副作用の少ない新たな治療方法を開発することを目的とし、大動物を用いて行うチャレンジングな研究提案を行った。我々はまずブタの急性炎症性モデルとして、方法に提示したように急性膵炎を惹起するモデルを作成し、実際の実験に使用できるように安定化させることから実験を開始した。開腹後、膵管を露出して薬剤性の急性膵炎を惹起させるモデルを使用し、閉腹した後、手術1日~適宜、投与後に再開腹して膵臓を摘出した。摘出した膵臓の状態を観察し、膵炎の程度を、薬剤投与量、投与後の膵臓の摘出時間を変え、病理組織学的に評価した。その結果、膵臓の炎症は出血性炎症を含めた種々の程度でその都度異なり、また投与量・時間経過との明らかな相関を示す事ができなかった。従って平成23年度は、ブタ急性膵炎モデル作成自体に計画以上の時間を費やしたのが現状である。今後更に数回のブタ実験を行った後、安定的な急性膵炎モデル作成を目指すが、これが困難と判断された場合は、すでに当科で確立している、異なる薬剤の腹腔内投与による全身性急性炎症モデルを本研究に適応することを検討する。本モデルは肝障害が強く、急性炎症モデルとしては、計画したモデルよりも選択性に劣るものの、導入が比較的容易で汎用性が高い。また間葉系幹細胞についてはすでに培養を開始しており、大動物に静脈投与できるような細胞数の確保が可能となっているため、安定的なモデル作成が可能であればいつでも本実験を開始できる状態にあると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実施概要にも述べたように、大動物のモデル作成に予想以上の時間を要している。元々比較的チャレンジングなモデルではあったが、開腹によって急性膵炎を惹起することが平成23年度研究計画に示した通り、技術的に可能であることを示した。しかしながら、炎症の程度がブタの各個体によって安定せず、本モデルを使用する本実験として、細胞移植治療の効果を正確に評価するにあたり、平成23年度終了時点では、コントロールとして使用するにはまだ不確実な状態である。観察時間、薬剤投与量の相違のみならず、ブタ自身の個体差が予想以上に強く、実験モデルとして安定性に書けている。従って、本実験を行うのに適した安定した結果を得るまで、当初予定よりも多くのプレリミナリーな実験を要したのが現状である。これに対して、平成24年度は引き続き更に複数回のモデル作成のためのプレリニナリーな大動物実験を継続するが、万が一安定した結果を得ることが困難な場合は、急性膵炎モデルを変更して、すでに当科で安定的に作成可能な、D-ガラクトサミンによる急性炎症惹起モデルを用いたいと考えている。本大動物モデルはすでに論文化されているが、急性膵炎と異なり肝機能障害の強いモデルであるため、本実験系にはやや斬新性に欠ける結果になり得る点、および急性炎症を臨床的に再現したモデルとしてはやや人工的な要素が強い欠点が否めないため、出来る限り当初計画通りの急性膵炎モデルの確立に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には、引き続き前述に示したごとく、大動物の急性膵炎惹起による急性全身炎症モデルの安定的作成に勤め、同時に間葉系幹細胞の細胞移植準備を確立する。万が一安定的な大動物モデルの供給が困難な場合、速やかにモデルの変更を行って本実験に移行したいと考えている。平行して行う細胞培養実験では、間葉系幹細胞の至適培養条件、細胞移植に十分な細胞数の安定的確保に勤め、 安定した炎症レベル・生存率を示すことの可能な動物モデルが作成でき次第すぐに細胞移植治療実験を開始できるよう、研究体制を更に強化する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度予算の使用内訳では、間葉系幹細胞の培養、及びブタ実験にほとんどの消耗品費を使用しており、次年度も引き続き培養用試薬・動物実験必要物品をもって消耗品費を使用する予定である。更に平成24年度に大動物の術後細胞培養治療効果を評価するために、経時的血液データ解析を行う予定であり、このための解析試薬を複数個購入する予定である。実際の手術実験のために必要な大動物実験室の設備使用費・動物管理費に対しては、その他として支出する予定である。また残念ながら平成23年度は動物モデルの確立に時間を要し、研究発表ができなかったため、平成24年度は学会への参加を行うことで、学会参加費・旅費に一定額を使用する。具体的には、主に細胞培養液、培養器具、細胞・組織染色用抗体、大動物麻酔薬、大動物手術室使用・管理料、大動物血液データ解析試薬に使用する予定である。
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