本研究はSystemic inflammatory response syndrome (SIRS)の病態を制御するため、間葉系幹細胞(MSC)の強い『抗炎症作用・臓器障害抑制効果』と共に、従来の一元的な薬物療法と異なる、細胞移植治療の持つ特有の周囲炎症環境に対する速やかな適応性を応用した治療法を、臨床応用に向けて発展させるために、実地臨床に則したブタの急性膵炎誘発によって惹起したSIRSモデルを用い、間葉系幹細胞移植によるその制御効果を検討するものである。実際にはブタMSCがヒトMSCと同様に周辺環境への適合性を有するかをin vitroで明らかにした後、ブタSIRSモデルに対する自家MSC移植の抗炎症効果が示されるか、副作用の有無と合わせ、血清学的・病理学的・臨床的に明らかにする手法を予定した。特にこれまで明確でなかったブタにおける膵炎モデルの作成に力を注ぎ、年間20頭を超えるブタに対して、手術的に膵炎を惹起するモデル、及び内服によるモデルの作成を行なって膵臓を病理組織学的に評価した。病理所見では、膵臓の出血壊死、炎症を認め、膵炎は確実に惹起されていたが、ブタの膵臓は非常に脆く、また炎症の程度に個体差が大きいため、膵炎の強度の調整とコントロールとしての安定的なモデルの創出が非常に困難であった。一方でMSCをブタ骨髄から分離培養する方法については確立し、いつでも使用可能な状態として凍結保存できたにも関わらず、大変残念ながら大動物を用いたSIRSモデル特に治療モデルとして安定的な膵炎の確立が困難であったため、論文化には至らなかった。
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