研究課題/領域番号 |
23659631
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 倫孝 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (80256510)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 細胞死 / 肝再生 / アポトーシス / オートファジー / p62 |
研究概要 |
肝再生におけるオートファジーおよびp62の機能と役割を検討する目的で、とくに細胞の脂肪化とその易傷害性(オートファジー、アポトーシス)の観点から検討を進めた。1)細胞および肝臓におけるオートファジー評価法の確立。これまでの検討により、アポトーシスの定性的、定量的解析法は確立されている。そのため、オートファジーの評価目的で、LC3、p62および電子顕微鏡写真をもちいて、その評価法を種々の条件下で検討した。これまでのところ、電子顕微鏡写真による形態変化の評価法がもっとも確実であると考えられた。2)オートファジーに関連するp62蛋白質の発現調整機構の検討とアポトーシス、オートファジーおよび酸化ストレスへの影響を検討した。p62分子発現調整には、Insulin/HGF刺激によるPI3-K/PDK/Akt経路の活性化が必須であり、これによりp62の転写活性が上昇した。オートファジーによりnon-transcriptionalにも上昇するが、通常状態ではこの経路による刺激が重要と考えられた。興味深いことに、脂肪肝などではp62発現は低下しており、これが直接の原因となってFas-Lの増強、ARE活性の低下が引き起こされていた。この事実は、p62がオートファジーあるいはPI3-K/PDK/Akt経路により制御されているが、細胞傷害の抑制、酸化ストレスの抑制に積極的に関わっている可能性を示していた。現在、このp62による(1)Nrf-2活性化機序解析、(2) 酸化ストレス解析、(3) アポトーシス解析を行なっている。Nrf-2活性化機序の解析のためには、Nrf-2自身のレポーターの作製、Nrf-2によるAREレポーターの作製を行なっている。酸化ストレスの解析には、レドックス感受性のGFPプローブを用いる。アポトーシス評価には、カスパーゼ3活性を反映する発光プローブを既に開発している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、オートファジー、アポトーシス、ネクローシスなど細胞死に関わるイベントが、肝病態・生理に果たす役割を解析し、新たな治療戦略を探索することを目的としている。これら種々の形態の細胞死は、発生・分化のみならず、生体内の恒常性の維持に関与すると考えられており、腫瘍細胞などにおける役割も研究されてきている。肝への外科的侵襲からの再生等における、オートファジー・アポトーシスの病態生理・役割およびp62 を中心とした病態制御を研究し、肝再生時の肝細胞の増殖・成長、脂肪化、酸化ストレス、アポトーシス・ネクロ―シスという一連の事象の相互連関と臓器機能制御機構を解析する。これまでに我々はオートファジーおよびその関連分子(とくにp62)と肝再生、肝障害の関係を示す新たな知見を得た。臓器再生・傷害に直接影響する可能性のある重要な分子を同定することに成功し、期待以上の成果を得ていると考えている。今後は、この分子の細胞、動物レベルでの意義の確認を行なう。
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今後の研究の推進方策 |
今後、p62を中心とした細胞傷害(Fas-L/Fasを介したアポトーシス、オートファジー)、酸化ストレス(ネクローシス)と肝臓の傷害・再生不全に向けた研究を進めていく。当初の目的に沿った研究を進めて行くが、今後はより焦点を絞って研究を行なう予定である。初年度は、オートファジー制御、p62分子制御とターゲット探索などを中心に行なってきたが、今後は、RNAi によるp62 のノックダウン、強制発現実験による影響を研究し、オートファジー、Nrf-2、酸化ストレス、アポトーシスという基軸となる現象の分子病態を解明する。さらに、マウス実験では、脂肪肝におけるp62と細胞死(オートファジー、アポトーシス、酸化ストレス) の影響に関して病態生理学的・分子生物学的解析を行なう。それ以外にも、とくに病的状態にある肝細胞(加齢肝細胞、高血糖・低血糖、高インシュリン状態など)での、オートファジー抑制、p62発現の病態への影響を、生化学的および分子生物学的に解析する。p62に関しては、Nrf-2阻害による遺伝子発現の解析を行ない、この経路の別のターゲット分子を探索する。最終的に、臨床応用への可能性を確認する実験を行なう。マウス疾患モデル(脂肪肝、糖尿病マウス肝、加齢肝など)を用いて、オートファジー抑制あるいはp62 発現誘導による治療効果を検証する。前者は、ラパマイシンによるmTOR 経路の抑制、それより上流のPI3-K 経路の抑制(Wortomaninn,LY294002 などによる)などへの阻害剤とp62の遺伝子導入(あるいはその他ターゲットとなる遺伝子導入)との比較・検討を行ない、治療としてより有効なターゲットを検討し、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では、研究費を主として消耗品(分子生物学的解析用の試薬、遺伝子導入、細胞培養および増幅などに関わるディスポーザブル・試薬の購入)あるいはマウスを用いた小動物実験(マウス購入費、飼育費、試薬代など)として用いる。また、データを研究会、学会において発表するための旅費等として使用する。23年度未使用額発生理由と24年度の使用予定(60万)23年度オートファジーによる細胞死の研究を進めたが、関連するp62分子のユニークで未知の機能を見出した。23年度はオートファジーに関する他の検討よりもp62の検討を優先させ、その結果未使用額が生じた。24年度は、この未使用額によりそれ以外のオートファジー関連分子の検討を行なう。
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