研究課題/領域番号 |
23659632
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
土川 貴裕 北海道大学, 大学病院, 助教 (50507572)
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研究分担者 |
平野 聡 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50322813)
宮本 正樹 北海道大学, 大学病院, 助教 (40333611)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 抗癌剤 / 免疫原性増強 / HLA / classI発現増強 / 食道癌術前化学療法 / Immunogenic cell death |
研究概要 |
この一年間に各種癌切除切片におけるHLAの発現率とリンパ球浸潤の関係を主に食道癌について解析した(Tsuchikawa T, et al. Clin Exp Immunol. 2011)。さらに、担癌患者において抗癌剤が免疫系に与える影響を、NAC前後の食道癌切除検体を比較することにより検討したところ、術前抗癌剤投与によりHLA発現が亢進されリンパ球浸潤が促進されることが明らかとなった(Tsuchikawa T,et al. Ann Surg Oncol. 2011)。この抗癌剤が免疫系に与えるメカニズムを解析するために、マウスモデルでの実験系を新たに構築した。抗癌剤暴露により、抗原提示に関わる細胞内タンパクの一つであるCalreticulinが細胞表面へ移行し癌細胞の抗原提示能が増強するする事実(Immunogenic cell death)に着目し、in vitroの系でいろいろなcell lineが抗原提示能を増強させる至適抗癌剤濃度を検定した。次にImmunogenic cell deathを誘発する至適抗癌剤濃度で前処置した細胞を、マウス片側背部に免疫原として皮下注射した。一定期間後に反対側に癌細胞を移植し腫瘍の増殖状況を解析した。この結果、至適抗癌剤濃度でImmunogenic cell deathを起こした細胞は、免疫原性を増強し、マウス反対側背部に移植した腫瘍の発育を抑制することが確認された。さらに発育抑制された腫瘍周囲間質にはCD3陽性リンパ球浸潤数も増えていることが判明した。現在、浸潤リンパ球内のメモリーT細胞数や腫瘍抗原特異性を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では平成23年度においては、(1)in vitroおよびin vivoの系でのcalreticulin発現検索(2)各種抗癌剤による、培養癌細胞の細胞表面calreticulin発現の変化の解析平成24年度に予定した研究計画は、(3)抗癌剤処理培養細胞の免疫原性の検討と特異的免疫誘導の有無の解析(4)術前化学療法施行前後の局所免疫環境の変化の検討(5)食道癌切除切片におけるcalreticulin発現の局在変化の検討(6)他癌腫、他種抗癌剤に応用範囲を検討であったが、臨床検体の解析が予想以上に進み、論文投稿アクセプトという形で研究結果が形になった。上記6項目の内、(3)(5)(6)に関して、移植腫瘍細胞による特異的免疫誘導能の評価を今後は進めていきたい。また抗癌剤による免疫系の活性化が、他の癌腫、他の抗癌剤でも誘導し得るかどうかも検討したい。
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今後の研究の推進方策 |
Tesniere A.らにより抗癌剤による免疫反応増強の予測が大腸癌、直腸癌患者で可能になった。(Tesniere A et al, Oncogene. 2010 , Immunogenic death of colon cancer cells treated with oxaliplatin.)当科は膵癌、胆道癌外科治療のhigh volume centerであるが膵癌、胆道癌はもっとも予後の悪い悪性腫瘍の一つであり、術前化学療法後の手術戦略の検討が臨床研究レベルでなされている。解析をあらたに進めたい。また抗癌剤が免疫反応を亢進するメカニズムについて、腫瘍崩壊によるimmune complex複合体がFcレセプターを介して免疫反応を惹起する可能性が、当科野口らにより報告された(Noguchi T et al. Intracellular Tumor-Associated Antigens Represent Effective Targets for Passive Immunotherapy.,Cancer Res. 2012)。 当該研究の最終目標は臨床応用であるが、術前化学療法により腫瘍特異的免疫反応が誘導された後に、手術により可及的にvolume reductionをはかることことは合理的であり、手術後のmicroresidual tumor cellが免疫反応により消失する可能性もあり、今後は、NACが有効であることの直接的殺細胞効果以外のメカニズムについて検討する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
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