本研究は、腹水中の腹腔鏡手術を手術用ロボットを用いて肝切除を行うという新規手術環境の予備的研究である。 まず、水中でのロボット手術を可能にするためにエネルギーデバイスの選択実験を行った。その結果、前立腺手術に用いられるオリンパス製のレゼクトスコープを用いることとした。つづいて、うさぎを用いて腹水下腹腔鏡手術モデルをつくり腹腔鏡下での腹水中肝切除術を施行した。安全な実験モデルを構築し、生存モデルも作成した。最終年度は、追加実験として手術用ロボットを用いて水中縫合実験を行った。腹腔鏡手術では困難な縫合手技をタスクとし、手術用ロボットで水中と通常の空気中での作業を比較評価した。ここで、水中での手術用ロボットの操作性は空気中環境と同様に有用であることが示された。また、これらの成果を学会にて発表した。 腹水中での腹腔鏡下うさぎ肝切除術は第113回日本外科学会定期学術集会にて発表した。また、ロボットを用いた水中の縫合手技実験は第59回国際外科学会日本部会総会にて発表した。 当初の計画との相違は、手術用ロボットを用いた3Dエコーによる肝切除が出来なかったことである。腹腔鏡下腹水中肝切除という目的は達したものの、研究費外の実験資材として想定していたロボット用3Dエコーが使用困難となったこと、またロボットに装着できる水中切除用エネルギーデバイスがなかった。手術用ロボットの改造は本研究の範疇を超えるため水中肝切除は断念した。追加実験となった水中縫合手技実験に成功したことから、ロボット用の水中デバイスが使用可能であれば十分に実現可能と考えられた。 手術用ロボットを用いた腹水中手術は未開拓領域である。本研究の成果は手術環境としての実現に一歩前進した。ロボットによる腹水中手術は宇宙空間での手術へも応用が期待される。
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