研究課題
本研究では,がん細胞の生命源となる糖質・エネルギー代謝に対するGSK3βの病的作用をメタボロームの理論と先進的技法により網羅的に解析する.そして,がん細胞の病理特性とGSK3βの「がん促進機能」の分子基盤を代謝の視点から明らかにする.これにより,がん細胞の生存,増殖,浸潤などの病態と連動する中心エネルギー代謝の特性とGSK3βによる制御の仕組みを明らかにし,GSK3β阻害による"がん細胞特異的代謝の正常化"に基づく新しいがん治療法の標的代謝経路を解明する.本年度は以下の成果を得た.(1) 大腸がん細胞と非腫瘍性細胞の代謝産物をメタボロームの手法により網羅的に比較解析した.その結果,がん細胞では解糖系とエネルギー産生の亢進が観察され,Warburg効果が検証された.(2) GSK3β阻害による大腸がん,膵がん細胞と非腫瘍性細胞の代謝産物の変化を同様の手法により網羅的に比較解析した.その結果,GSK3β阻害剤により,がん細胞では乳酸の低下とともに,ピルビン酸脱水素酵素とミトコンドリアにける酸化的リン酸化(TCA回路)の賦活化を示唆する中間代謝産物の変化が検出された.一方,非腫瘍性細胞の代謝産物はGSK3β阻害剤により変化しなかった.(3) 上記の中間代謝産物の一部を同じがん細胞を対象に個別に測定し,メタボロームによる村的解析の結果の一部を検証した.以上の結果から,GSK3β阻害はがん細胞特有のエネルギー代謝を修飾することにより,がん治療効果を示すことが示唆された.細胞レベルの解析から得られた結果を担がん動物で検証するために,大腸がん細胞移植マウスを準備して,GSK3β阻害剤による治療実験を行った.しかし,代謝産物の解析に必要な量の腫瘍組織試料が得られなかったため,次年度に再度,実施することとした.
3: やや遅れている
細胞レベルの解析から得られた結果を担がん動物で検証するために,大腸がん細胞移植マウスを準備して,GSK3β阻害剤による治療実験を行った.しかし,代謝産物の解析に必要な量の腫瘍組織試料が得られなかった.個別の中間代謝産物の測定を担当している博士研究員が体調不良であった期間があり,予定していた解析,とくにミトコンドリアの機能解析が遅れた.
代謝産物の検出に必要な移植腫瘍組織を得るために,大腸がん細胞移植マウスの治療実験を再度,実施する.中間代謝産物の測定とミトコンドリアの機能解析は,別の博士研究員が継続する.これにより,当初の計画課題を本研究期間内にできるだけ遂行するように努める.
メタボローム解析をもとにした個別の中間代謝産物の測定やミトコンドリアの機能解析が予定より遅れている.また,大腸がん細胞移植マウスの治療実験でGSK3β阻害剤の抗腫瘍効果が予想より強く,代謝産物の解析に必要な量の腫瘍組織試料が得られなかった.このため再度,動物実験を実施する.次年度使用額をおもにこれらの解析経費に充てる.
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J Gastroenterol
巻: 47(3) ページ: 321-33
DOI:10.1007/s00535-011-0484-9
Cancers
巻: 3(1) ページ: 446-60
DOI:10.3390/cancers3010446
http://www.kanazawa-u.ac.jp/~ganken/shuyoseigyo/index.html