膵癌癌細胞はMMPやuPAなど蛋白分解酵素を分泌し周囲組織へ浸潤することはこれまでよく研究されてきている。最近、細胞外基質(ECM)を細胞内に取り込み分解する基質クリアランスの機構について報告が散見されるが、膵癌に関してはほとんど報告がない。膵癌細胞が浸潤する際は上皮間葉移行を起こすが、われわれはこれに注目し、癌細胞がEMTにより線維芽細胞同様コラーゲンリモデリングに関与している可能性に関して検討した。膵癌細胞株、初代培養膵線維芽細胞のコラーゲン取り込み能を評価するためにコラーゲンでコーティングした蛍光ビーズを用いてFACS解析を行い、線維芽細胞と同様に膵癌細胞でもコラーゲンを細胞内に取り込む機能を有することを明らかにした。そこで、コラーゲン取り込み受容体と呼ばれるCD280の膵癌細胞における発現を検討したところ、膵癌細胞膜表面にCD280が発現し、さらには上皮間葉移行によりその発現が亢進することが明らかとなった。特にCD280の発現は、膵癌細胞株の中でも間葉系の形質を呈する細胞株群に高く、EMTとコラーゲン取り込み能の関連性が示唆された。また、integrineβ1もコラーゲン取り込み受容体として報告されているため、この発現も検討したところ、EMT並びに膵癌細胞のコラーゲン取り込み能との関連を認めなかった。CD280をsiRNAにより抑制すると、膵癌細胞株め浸潤能が低下するといった知見も得られている。これらのデータより膵癌細胞の持つコラーゲン取り込み機能は膵癌浸潤に重要な役割を持つことが示唆され、さらには膵癌細胞の持つECMの細胞内分解機構は、癌細胞が浸潤するスペースを形成するという観点より新しい浸潤メカニズムであると考えられる。
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