研究課題/領域番号 |
23659658
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
時野 隆至 札幌医科大学, 医学部, 教授 (40202197)
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研究分担者 |
古畑 智久 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (80359992)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | p53 / MDM4 / 分子標的 |
研究概要 |
p53経路の不活性化はヒトの発がん機構に共通に見られる特徴である。がん遺伝子MDM4によるp53経路の負の制御を阻害することは、p53経路の再活性化につながる。本研究では、MDM4-p53結合を競合的阻害する新規のペプチドを同定することを目的とする。ペプチドは相互作用できる領域が大きいので、高い親和性、高い特異性、低い毒性という特徴をもち、臨床研究への発展が期待できる。さらに、がん遺伝子MDM2およびMDM4の両方を同時に標的としたペプチド阻害剤同定に展開できれば、革新的な難治がん治療法の開発につながることが予想される。p53と MDM4タンパクの相互作用を阻害する標的分子を探索する目的で、本研究ではファージ ディスプレイ法を利用してp53-MDM4結合を阻害する新規のペプチドを探索した。MDM4-p53の結合を競合的阻害するペプチドを同定する目的で、MDM4タンパクのp53結合ドメインに特異的に結合するペプチドを、12-merペプチドのファージ ディスプレイ ライブラリーを利用して探索(1次スクリーニング)を行った。そのペプチド構造にもとづき、より高親和性を有することが予測されるペプチドを多数合成し、MDM4-p53結合を阻害する標的ペプチドを同定する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.GSTタグを付加したMDM4のp53結合ドメイン配列[アミノ酸1-200](以下、GST-MDM4[1-200])を発現するベクタープラスミドを構築し、大腸菌で発現させて、GST-MDM4[1-200]融合タンパクをグルタチオン アガロース ビーズにより精製した。2.MDM4のp53結合ドメインに結合するペプチドを同定するため、1次スクリーニングとしてファージディスプレイ法を利用した。本研究では、10億種類以上のランダムペプチドを提示できるファージ ライブラリー(PhD-12, New England Biolabs社)を利用した。3.種々の12mer-ランダムペプチドを表面に提示したバクテリアファージをターゲットとなるMDM4のp53結合ドメインすなわちGST-MDM4[1-200]融合タンパクに接触させる。洗浄して、ターゲットに結合しないファージ粒子を除去する。ターゲットに結合したファージ粒子を溶出する。4.この接触-洗浄-溶出のサイクルを4回繰り返し、ターゲット(MDM4のp53結合ドメイン)に高親和性で結合するファージをのみを溶出し、そのファージが提示しているペプチドのアミノ酸配列を読み取ることができた。 4.MDM4と結合する正常型p53タンパク由来のペプチド配列[ETFSDLWKLLPE]と比較して、高親和性ペプチド(Kd 100nM以下)を選択した。既に小規模のスクリーニングを施行し、正常型p53タンパク由来のペプチド配列[ETFSDLWKLLPE]と同程度の解離定数Kdをもつペプチドの単離に成功している。本研究課題では、10億種類のランダムペプチド ライブラリーのスクリーニングを施行した。
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今後の研究の推進方策 |
1.ファージ ディスプレイ法を用いた1次スクリーニングで単離したMDM4のp53結合ドメインに結合する多数のペプチド配列にもとづき、複数の相同性モデリングやタンパク質スレッディング等のタンパク質複合体構造予測プログラムを利用して、立体構造から高親和性を有すると予想される数百個のペプチドを設計・合成する。2.上記の合成したペプチドの中で、p53に対するMDM4タンパクの結合を競合的阻害できるペプチドを同定する目的で、2次スクリーニングを施行する。2次スクリーニングとしては、固定化プルダウン アッセイを応用したMDM4-p53結合阻害のハイプット スクリーニングを行う。3.準備状況として、われわれはこのシステムを応用してMDM4-p53結合阻害を測定するためのハイプット スクリーニング法の開発に既に成功している。96ウェルプレート表面に固相化したBG基に共有結合させることによって、SNAPタグ融合p53タンパクを固定する。蛍光ラベルしたSNAPタグ融合MDM4タンパクと固定化p53タンパクとの結合状態は蛍光を測定することにより評価できる。この96ウェルプレートの各ウェルに設計した別々の合成ペプチドを添加し、蛍光が失われたウェルに添加されたペプチドをMDM4-p53結合阻害ペプチド分子の有力候補として選択する(目安としてKd 10nMを目標とする)。4.2次スクリーニングで得られたp53に対するMDM4タンパクの結合を競合的阻害できるペプチド分子の生物学的な効果を評価するために、腫瘍細胞においてp53の転写活性化、細胞周期停止、アポトーシス誘導等を分子生物学的に解析する。5.本研究で同定したペプチド分子が、p53依存的に腫瘍細胞の増殖抑制を誘導できるかをマウス異種腫瘍モデルにおいて評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
ファージ ディスプレイ法を用いた1次スクリーニングについては当初の計画以上に進展できた結果、「次年度使用額」約69万円が生じた。次年度は、消耗品(実験試薬、ペプチド合成、実験動物、実験器具等)150万円、国内旅費(研究成果発表等)20万円、謝金等(実験補助)10万円、その他(論文校正、学会投稿料)10万円の研究費の使用を計画している。
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