研究課題
左室容量負荷の増大をきたす僧帽弁機能不全の外科的治療として弁形成や腱索再建が行われるが、残された乳頭筋を含む心筋収縮拡張能の影響はきわめて大きい。本研究では、微細形状機構合金線維を応用し、心筋収縮に同期し収縮拡張が可能な人工乳頭筋を開発する。これは僧帽弁閉鎖時に乳頭筋にかかる約10Nの力学的負荷に対して必要なときにリアクティブに収縮制御し、心収縮時の弁尖位置の調節を機能的に補助するもので、形態学的修復に機能的補助を付加する新しいシステムである。本研究で開発する装置は、超小型のマイクロマシン化した機械式アクチュエータを用いて、人工心筋の制御技術を基盤として僧帽弁機能を補助するシステムである。僧帽弁機能不全をともなう心不全では、僧帽弁および乳頭筋の形態学的位置関係が心収縮-拡張期においてきわめて重要である。本研究により経験的・解析的には説明のしづらい僧帽弁逆流メカニクスと治療に対して、日本発の材料・ロボット工学的制御技術を駆使して挑戦する。【平成23年度:新鮮摘出心ハイブリッドモデル開発と人工乳頭筋プロトタイプ設計】動物実験組織摘出ハイブリッドモデルを構築し、乳頭筋のモデル解析を行った。健常成山羊心臓より大動脈弁と僧帽弁-乳頭筋を有する組織を摘出し、高分子製弾性心基部台に縫合し、左室モデルを作成した。このモデルを定圧水力学回路に接続し、左室収縮期圧の負荷時の乳頭筋張力と僧帽弁逆流を調べた(n=8)。この組織-合成高分子材料ハイブリッド左室モデルを用いた成果として、左室収縮にかかる定圧負荷(100mmHg)時には、乳頭筋張力の上昇により僧帽弁逆流は有意に低下し、同張力が14N以上となったときに僧帽弁逆流が約0.1L/minと低減されることが明らかとなった。これらの結果に基づき、僧帽弁機能を支援する形状記憶合金線維を用いたロボティクス制御が可能な人工乳頭筋プロトタイプ試作を行った。
2: おおむね順調に進展している
実験室設備と実験環境の復旧が予想よりも遅れたため、年度計画前半では動物実験等の実施にも困難があったため評価モデルの作成に若干の遅れがあったが、施設復旧により、成果概要には示さなかったが合計20頭以上の健常成山羊を用いたハイブリッドモデルの作成を行い得た。モデルの試作方法も含めて、高分子膜および高分子製ケーシングに生体弁組織の縫合固定を高い再現性を持って実現し、僧帽弁機能と乳頭筋負荷を定量的に評価しうるハイブリッドモデルを開発できた。また、これらの開発した組織モデルを用いて、定圧負荷下での僧帽弁逆流と乳頭筋張力の機能評価を行い、研究当初の目標であった人工乳頭筋の設計仕様を決定し、目的どおりに形状記憶合金線維を応用した人工乳頭筋のプロトタイプモデルを開発できた。
【平成24年度:人工乳頭筋による僧帽弁機能制御性解析と動物実験による血行力学評価に挑戦】開発したプロトタイプモデルを用いた僧帽弁機能の制御性を検証する。健常成山羊の新鮮摘出心を用いたハイブリッド心臓モデル(平成23年度に完了)、乳頭筋にかかる力学的作用を検証する流体実機モデルのデータに基づき、平成24年度には血液循環のシミュレーション技術を駆使して人工乳頭筋の最適設計を行う。具体的には、ハイブリッド心臓モデルを用いた高度に血行動態を再現する僧帽弁挙動シミュレーションを実施し、in vitroでの僧帽弁開放閉鎖挙動と乳頭筋機能を医工学的観点から検討し、僧帽弁-乳頭筋機能の相互作用を制御しうるロボティクス人工乳頭筋システムを試作し制御性の検証を行う。 さらには、開発した人工乳頭筋デバイスについて血行力学的効果を動物実験(健常成山羊、慢性動物実験)に挑戦する。人工乳頭筋は、これまで開発してきた「生体僧帽弁(動物)-人工物(シリコーン)」による駆動可能なハイブリッドモデルにおいて基礎設計評価を実施し、病態生理学に基づいたローコストな設計試作手法を駆使する。
【次年度の研究費の使用計画】平成23年度は、研究成果発表の機会を利用できない状況もあったが、平成24年度は23年度成果発表のための旅費を計上する。また、平成23年度末にも開発したプロトタイプの動物実験評価を実施する目標を目指していたが、本年度はシミュレーションモデル評価とともに人工乳頭筋の左室への植え込み実験をすすめ、僧帽弁逆流に対するインテリジェント人工乳頭筋の血行力学的影響の定量的検討を行う。この際必要な人工乳頭筋モデルの高分子材料、金属材料、動物実験費用を主として計上する。また、計画している慢性実験の実施での動物のケアにかかる謝金を計上する。
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http://mec1.idac.tohoku.ac.jp