研究課題/領域番号 |
23659664
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80236017)
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研究分担者 |
宇佐美 範恭 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30378179)
加藤 省一 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30584669)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 |
研究概要 |
近年認識されてきた癌幹細胞仮説は、癌組織中で大多数を占める非癌幹細胞、あるいは、培養細胞を用いた研究に基づくこれまでの知識を根底から見直す必要性を提起している。乳癌等一部の癌でその存在と重要性は揺るぎないものの、肺癌等では存在そのものに懐疑的な意見も根強い。また、癌幹細胞に関する報告の多くは既存の培養細胞を用いたin vitro研究であり、個体研究の大部分は未だ課題として残されている。本申請では肺癌を研究対象とし、B, T細胞系に加えてNK細胞機能を欠損した新規免疫不全マウスを用い、臨床検体から肺癌幹細胞株の樹立と肺癌幹細胞マーカーの同定を行う。さらに、樹立した肺癌幹細胞を用いて肺癌幹細胞を標的とした肺癌治療薬のスクリーニングシステムの確立のための予備的検討を行う。平成23年度は約100症例の肺癌手術検体より癌幹細胞株を樹立した。この細胞株は、わずか1000個の細胞接種でマウスに腫瘍を形成する。既知の癌幹細胞表面マーカーを調べたところ CD34(-), CD44(+/-), CD117(+), CD133(-) EpCAM(+) CD166(+)であった。興味深いことに得られた細胞を血清存在下で培養するとこのうちCD166が陰性となり、また、マウスでの腫瘍形成能も消失した。こうした表面抗原発現様式、および、マウスでの腫瘍形成能の変化はこれまで調べた限り既存の培養細胞株では観察されない。さらに、マウスで形成された腫瘍においては、原発性と同じく、多様な分化度を持つ組織像が確認されたことより、CD166陽性であるこの細胞株が幹細胞と同等の性質を持つこと、また、培養条件を変えることによって幹細胞性を消失されることが示された。今後この細胞株を用いることで、幹細胞性をコントロールしながら肺癌の発生、転移、治療に関わる研究を行うことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の達成目標は「細胞株の樹立」と「Rag2, Jak3ノックアウトマウスにおける腫瘍形成能の定量化」「樹立細胞株の分化能の評価」であった。【研究実績の概要】に記したとおり、一年の研究期間中にこの3点とも達成目標に到達した。
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今後の研究の推進方策 |
肺癌幹細胞株が樹立されたことにより、安定的に研究を行う体制が整った。しかし、現時点で実験に用いることのできる細胞株は一つに過ぎないため、株数を増やす必要がある。これらの細胞株をもちいて、幹細胞マーカーおよび肝細胞性を規定する因子についてスクリーニングを行う。そこで得られる結果をもとに、臨床肺癌検体をもちいて肺癌幹細胞マーカーおよび規定因子の検証を開始する。さらに、樹立した肺癌幹細胞株を用いて肺癌幹細胞を標的とした肺癌治療薬のスクリーニングシステムの確立のための予備的検討を行うことが残された課題である。
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次年度の研究費の使用計画 |
肺がん肝細胞株培養(培地、成長因子、プレート、そのほか試薬)と遺伝子・遺伝子産物発現解析(マイクロアレー、リアルタイムPCR、抗体、シークエンシング等)にかかわる諸経費、病理学的解析(抗体、染色キットなど)にかかわる諸経費等を物品費として計上した。学会参加費’(癌学会)、共同研究打ち合わせ経費(熊本、北海道、東北出張)につき旅費を計上した。論文等及び掲載にかかわる諸費用をそのほかとして計上した。
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