研究概要 |
近年認識されてきた癌幹細胞仮説は、癌組織中で大多数を占める非癌幹細胞、あるいは、培養細胞を用いた研究に基づくこれまでの知識を根底から見直す必要性を提起している。乳癌等一部の癌でその存在と重要性は揺るぎないものの、肺癌等では存在そのものに懐疑的な意見も根強い。また、学会レベルでは様々な報告もあるものの、ほとんどが細胞株レベルのものであり、臨床検体の情報に乏しい。本申請では肺癌を研究対象とし、肺癌幹細胞株の樹立と肺癌幹細胞マーカーの同定を目的とした。臨床検体および培養細胞を用いた各種マーカー候補(CD34, CD44, CD117, CD133, EpCAM, CD166)の発現検索、培養細胞を用いたマウス肺転移巣形成効率の測定、公開データベースによる遺伝子発現検索、臨床検体を用いた遺伝子発現検索等を行った。肺癌幹細胞マーカーとして報告のあるCD133は臨床病理検体の免疫染色解析結果多くの肺癌で発現が観察されなかった。また、培養細胞においても同様であったため、マーカーとしての有用性が低いと考えられた。一方、研究期間中に発表のあったCD166はほとんどの肺癌に程度の差こそあれ発現が観察され癌幹細胞マーカーとして適切であると考えられた。最初に、公開データベースより、CD166と発現相関関係が観察された遺伝子につき、定量PCR法により検証を行った。種々の遺伝子を検討した結果、一つの遺伝子につき名古屋大学における臨床検体においてもCD166と発現の正相関が観察された。この遺伝子をshRNAでノックダウンし、マウスに接種したところ、肺転移巣の形成が抑制された。以上の結果より、この遺伝子が将来的に肺癌治療の分子標的候補となり得る可能性が示唆された。
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