研究概要 |
当グループでは、嗅粘膜片をラット脊髄損傷モデルに移植し、後肢の運動機能回復に一定の改善を認めており、嗅粘膜組織が軸索と相互作用することを示唆している。本研究では、これを器官培養のモデル系で検証することを目的とした。また、嗅粘膜を構成する嗅上皮olfactory epithelium(OE)あるいは、嗅粘膜固有層lamina propria(LP)を分離し、軸索との相互作用の違いを検討した。 成体ラット鼻中隔から嗅粘膜を分離し、嗅粘膜(OM)構造のまま、あるいはdispase処理により、OEとLPに剥離したのち細片とし、ラット脊髄由来後根神経節(DRG)とともにセルカルチャーインサート上に置き、コラーゲンゲル中で培養した。7日目に固定・免疫染色し、DRGからの伸長軸索の本数・長さをカウントした。また培養上清中の神経栄養因子をELISAで測定した。 DRGからの伸長軸索は、OM, OE あるいはLPの置かれた方向に向かって伸長し、誘引因子が嗅粘膜から遊離されていることが示唆された。外液に抗NGF抗体、抗NT3抗体を加えると誘引は抑制された。抗BDNF抗体は有意な阻害を示さなかった。培養上清には培養2-4日でNGFが検出され、VEGFも継続して産生されていた。誘引作用はLPがOEより強く、また軸索はLP内のOECで構成されるケーブル状の構造に沿って伸長し、LP表面のみならず内部にも進入することが認められた。OECと軸索との細胞接着相互作用を調べるため、抗L1CAM抗体あるいは抗PSA-NCAM抗体存在下で培養すると、軸索は伸長するがLPへの進入は阻害された。一方LPをendoneuraminidase処理してNCAMのポリシアル酸を除去するとLPへの進入は処理濃度依存的に抑制された。以上から、LP内のOECに発現するPSA-NCAMが軸索との直接相互作用に関与することが示唆された。
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