研究課題/領域番号 |
23659687
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西堀 正洋 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (50135943)
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研究分担者 |
劉 克約 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (40432637)
和氣 秀徳 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (60570520)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脳外傷 / 血液-脳関門 / HMGB1 / 脳浮腫 / 抗体医薬 |
研究概要 |
1.Wister系雄性ラットを用いて、パーカッションインジュリー装置で麻酔下に脳打撃傷害を作製した。受傷圧を1.6-2.6Atmで実験を開始し、急性期に中等度の麻痺症状を呈する条件を決定した(2.2-2.6、Atm)。受傷直後とさらに6時間後に抗HMGB1抗体を投与した。また、抗体の投与量は、0.33mg/kg,0.67mg/kg,1.0mg/kgの3つの用量として実験を開始した。対照動物には、抗Keyhole limpet hemocyanin 抗体を投与した。実験のデザインとして、モデル作製、抗体投与(劉克約助教)と神経症状評価(実験補助者)をそれぞれ別人が担当するようブラインド化し、先入観が入らない設計とした。2.神経学的評価は、受傷後、経時的に麻痺症状をスコア化し、さらにシリンダー法およびロータロッド法で運動麻痺症状を定量した。シリンダーテストでは、直径20 cm、高さ40 cm の透明なプラスチック円筒の中で、患肢と健常肢を壁上に着く比率を測定した。ロータロッド法では、4-40 rpm までの上昇回転スピードで、歩行可能時間を測定し、手術前値に対する比を各測定時点で算出した。その結果、外傷後24時間の時点で対照動物ではシリンダーテストスコアの有意な低下が見られるが、抗体治療群では低下が抑えられることがわかった。さらにロータロッド法では、対照群において受傷後3-24時間に渡って前値に対する低下が認められたが、抗体治療群では、6時間以後有意に回復した。以上の結果から、抗HMGB1抗体治療は、脳外傷から24時間までの間に認められる患側肢の運動低下と協調性運動障害に対し、有効に働くことが明らかにされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラットの脳外傷モデルをFluid percussion により作製し、中等度の麻痺症状の得られる条件(2.2-2.6 atm, 16 mseconds) を決定できた。麻痺症状の程度は、シリンダーテストで受傷後6時間で測定値約0.45以下に、24時間で0.4以下になる程度であった。ロータロッドテストでは、トレーニング前値に比較し、受傷後0.6-0.7の値になる程度であった。このような中等度の神経障害を再現性よく得られるモデルを確立することは、本研究のように脳外傷を抑制する薬物を評価する場合に極めて重要である。まず、上記条件において、受傷局所における神経細胞HMGB1のトランスロケーションについて検討した。受傷局所の大脳皮質ではしばしば皮質内に亀裂様の障害が入るが、同部位に一致して神経細胞内からHMGB1陽性構造が消失する(24時間後)ことがわかった。神経細胞HMGB1のトランスロケーションは、受傷局所から同心円状に経時的に広がる傾向が見られた。以上の知見から、脳外傷においては脳虚血時に見られたのと同様の神経細胞核に存在するHMGB1の顕著なトランスロケーションが生じ、細胞質を経由して細胞外へも放出されるものと推定された。 外傷後24時間の時点での神経学的評価では対照動物ではシリンダーテストスコアとロータロッドテストの有意な低下が見られるが、抗HMGB1単クローン抗体治療群では低下が抑えられることがわかった。以上の結果から、抗HMGB1抗体治療は、脳外傷から24時間までの間に認められる患側肢の運動低下と協調性運動障害に対し、有効に働くことが明らかにされた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究において、脳外傷モデルが確立され、さらに内因性HMGB1の動態と抗HMGB1単クローン抗体の末梢投与の効果が運動機能の改善作用の形で明らかにされた。今後の研究においては、内因性HMGB1の作用をできるだけ詳細に明らかにするための実験が必要になる。つまり、HMGB1の血液―脳関門(BBB)構造と機能に対する効果、脳内炎症関連分子の発現に対する効果、白血球細胞浸潤に対する効果などが検討される。これらと平行し、MRIを用いた脳浮腫の経時的変化の測定や、障害局所におけるBBB破綻に関与する分子群として、Aquaporin-4の発現上昇とタイトジャンクション構成蛋白群の解析を実施する。 HMGB1のトランスロケーションと細胞外への遊離に関しては、これらを抑制する薬物の報告が文献上散見されるようになってきた。その代表は、生薬甘草の主要薬効成分であるグリチルリチン酸である。抗HMGB1抗体は、細胞外環境においてHMGB1と結合し、その活性を中和することで作用を発揮する。HMGB1の細胞外への放出を抑制するとされているグリチルリチン酸が脳外傷時のHMGB1トランスロケーションを実際抑制するかどうかを検証し、グリチルリチン酸と抗HMGB1単クローン抗体の作用比較を実施する。 最近、脳の外傷性障害とアルツハイマー病脳で認められる変化に共通性があることが指摘されている(Keystone symposium 2012; Clinical and molecular biology of acute and chronic traumatic encephalopathies)。特に頻回の軸索損傷が、長期的にβアミロイド蓄積やタウリン酸化を促進するといわれている。脳外傷モデルでもより長期の観察でこれらの障害マーカーを追跡する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 研究期間中必要とされる抗HMGB1単クローン抗体をハイブリドーマから大量産生し、精製するための培地、精製カラム、分析試薬類に要する経費:5万円2. 脳外傷モデルを作製するための実験動物:Wister 雄ラット:5万円3. 共焦点レーザ顕微鏡、CT-PET、FACS解析などの中央共同施設機器の使用料:10万円4. 生化学的分析に必要な試薬類:ウェスタンブッロット、qRT-PCR、ザイモグラフィー:10万円5. 研究補助謝金:50万円
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