研究課題/領域番号 |
23659692
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐々木 富男 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10134561)
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研究分担者 |
溝口 昌弘 九州大学, 大学病院, 講師 (50380621)
中溝 玲 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (80529800)
吉川 雄一郎 九州大学, 大学病院, 助教 (80423515)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脳血管障害 / 周皮細胞 / 細胞内シグナル |
研究概要 |
本研究は脳虚血時のペリサイトにおけるシグナル伝達機構解明を目的とするものであり、本年度はペリサイトにおけるPDGFRβ発現調節機構と、その相互作用について検討した。ペリサイトにおけるPDGFRβ発現調整機構の解明我々は予備実験で培養ペリサイトにbFGFを投与するとPDGFRβの発現が有意に増加することを明らかにしていた。本研究では、PDGFRβ発現に関与するその他の因子を同定することを目的に低酸素や血管新生因子など様々な刺激を用いて検討した。1%低酸素やPDGF、VEGF、NOドナー投与下で検討をおこなったが、ペリサイトにおけるPDGFRβ発現量は増加せず、その発現調節にはbFGFが主な役割を担っていることが示唆された。PDGFRβシグナルのペリサイトに与える影響の検討PDGF-PDGFRβシグナルの活性化によりペリサイトにおいてAkt、Erk、PLCγなどの様々なシグナル蛋白が活性化されたが、その中でも特にAktの強いリン酸化がみられ、PI3K/Aktシグナル伝達系の重要性が示唆された。ペリサイトにPDGF-Bを投与するとコントロール群やbFGF投与群と比較して細胞数が著明に増加し、その反応はPI3K阻害剤であるLY294002で抑制された。さらにPDGF-B投与でアポトーシス関連タンパクの一つであるBadのリン酸化やCaspase-3のcleavage阻害も認められ、PDGFRβシグナルによる抗アポトーシス効果が示唆された。また、PDGF-B投与によりペリサイトにおけるNGFやNT-3などの神経栄養因子の発現も増加し、この反応もLY294002によって抑制された。これらの結果からPDGFRβシグナルはPI3K/Aktシグナル伝達系の活性化を介してペリサイト自身の細胞増殖・アポトーシスを制御し、さらに神経栄養因子の発現を促していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ペリサイトにおけるPDGFRβシグナルの発現調節機構および役割を詳細に検討した結果、PDGFRβシグナルがペリサイトの増殖・生存・神経栄養因子発現等において、多彩な役割を担っていることを明らかにした。脳虚血時のペリサイトにおけるシグナル伝達機構の解明に繋がる新たな知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により培養ペリサイトにおいてPDGFRβシグナル伝達系は当初の予想以上に多彩で重要な役割を担っており、脳虚血の病態において重要な役割を果たしている可能性があると考えられた。今後は当初の計画を若干変更し、ペリサイトにおけるPDGFRβ調節機構を詳細に解明することに主眼をおいて研究を進めていく。本年度の結果より、bFGFがペリサイトのPDGFRβ発現を増加させることが明らかになった。今後はこのbFGFによるPDGFRβ発現調節機構について培養細胞レベルでより詳細に検討し、bFGF-PDGFRβ発現調節機構の解明に努める。さらに、脳虚血後のbFGF発現パターンとbFGF-PDGFRβシグナル伝達系の活性化に関してマウス局所脳虚血モデルを用いて詳細に検討し、脳虚血時のペリサイトにおけるbFGF-PDGFRβシグナル伝達系活性化の意義解明に努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、bFGFによるPDGFRβ発現調節機構について培養細胞、脳虚血動物モデルを用いてさらに詳細な検討を行う。bFGFによるPDGFRβ調節機構の詳細な検討:培養ペリサイトにおいてbFGFはFGF受容体に結合してPDGFRβの転写を増加させていることが予想される。そこで、ペリサイトに発現するFGF受容体(FGFR1-4)をRT-PCRやWestern blotting法を用いてmRNA、蛋白レベルで解析し、PDGFRβ発現との相関を検討する。さらに特異的FGF受容体阻害剤などを用いてPDGFRβ発現制御のメカニズムをWestern blotting法などの手法を用いて分子生物学的に詳細に検討する。動物モデルにおける脳虚血時のbFGF発現パターンの解析:Rose Bengal dyeとクリプトンレーザーによる光化学反応を利用したマウス遠位中大脳動脈閉塞モデルを用いて脳虚血時のシグナル伝達系に関して解析する。マウス局所脳虚血モデルを作成し、免疫染色・免疫蛍光二重染色などの手法を用いて脳虚血時におけるbFGF発現部位およびbFGF発現細胞(ペリサイト、血管内皮、神経細胞など)を詳細に比較検討し、脳虚血時のシグナル伝達系制御メカニズム解明、シグナル伝達系活性化の意義解明に努める。
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