研究課題/領域番号 |
23659728
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中西 義孝 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (90304740)
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研究分担者 |
三浦 裕正 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10239189)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人工関節 / 生体反応 / 摩耗 / ポリエチレン / 研磨 / 合金 / テクスチャリング |
研究概要 |
人工関節による骨融解やルースニングの原因は、人工関節から発生する摩耗粉がマクロファージの食作用などに好都合な大きさとなっているためである。本研究の目的は、摩擦面に利用されているCo-Cr-Mo合金の表面をナノレベルでテクスチャリングすることで、超高分子量ポリエチレンの摩耗粉サイズの巨大化と、総摩耗量の抑制ができることを実験的に証明することである。 一般的な表面仕上げでは表面粗さが10ナノメートル程度の凹凸まで平滑化されているが、提案するテクスチャリングでは表面粗さを1ナノメートル程度までさらに平滑化し、50ナノメートル程度のディンプルや溝を面積占有率3%で配置した。このテクスチャリングは一般的なラッピング手法のみで適用可能であり、研磨条件(砥粒、スラリー濃度、研磨圧力、研磨時間など)を変えるだけで対応できることが特徴である。 Pin-on-disc試験の結果により、テクスチャリングを適用することで、(1)マクロファージに貪食されやすい0.2μm以下の摩耗粉数は50%減少、(2)貪食されにくい1.0μm以上の摩耗粉数は50%増加、(3)摩耗粉量は30%減少、することが実験的に証明できた。また、(2)の肥大化現象は摩耗粉の形態に影響を与えず、ただ肥大化するのみであることも判明した。 発生した摩耗粉の毒性試験として、マウス由来RAW246.7細胞を用いた倒立培養実験を行ったところ、(A)ナノテクスチャリング面では摩耗粉無添加(Control)と同様に細胞数の減少が起こらないこと、(B)炎症性サイトカイン(IL-6)の発現が抑制されていること、が確認できた。 これらの成果は、ナノテクスチャリングが炎症性サイトカインの産生を抑制可能で、骨融解(再置換手術)を回避できることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画である「1:Pin-on-Disc試験環境の整備(担当:中西)」においては、生体に近い条件に近づけるための試験機の高剛性化を、「2:ナノテクスチャリング条件の探索(担当:中西)」においては、具体的な成功事例の提案を、「3:摩耗粉形態の解析(担当:中西)」においては発生した摩耗粉サイズの度数分布表や各種形態評価パラメータによる形態変化結果を、「4:摩耗粉毒性の評価(担当:中西・三浦)」においては、炎症性サイトカインの遺伝子発現量をもとにしたテクスチャリングの有効性評価を、それぞれ遅延なく実施し、かつ、計画通りの結果を得ることができた。 テクスチャリングについては、知的財産として国際特許出願(特願2011-537307(PCT/JP2010/068616))が完了しており、世界的な研究開発活動がスムースとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に得られた成果を随時、実際の人工関節面に合わせた曲面に展開する予定である。ラッピング装置を曲面に対応可能なオスカー研磨機や斜軸研磨機に変更し、テクスチャリング処理時に操作する制御対象を微調整する予定である。 曲面での対応が可能となった時点で、すでに臨床利用されている人工股関節または人工膝関節の摩擦面にナノテクスチャリングを施し、現有の関節シミュレータを用いた調査研究を行う予定である。 研究項目の追加として、利用する細胞をヒト由来細胞に変更可能かを検討し、実施可能であれば追加研究として行うことを予定している。理由としては、企業が本研究開発成果に興味を持つためには、現行のマウスRAW246.7細胞を用いた炎症性サイトカインの遺伝子発現量だけの成果では不十分であり、動物実験を取り込んだ有効性を示すデータの蓄積が必要であるからである。しかし、一方でミニチュアの人工関節の試作品(研究開発グループのみによる開発品)を動物実験に適用することは、研究成果の精度の上でも、動物等を科学上の利用に供する場合の配慮の上でも問題があり、ミニチュアの人工関節の埋め込みによる動物実験は、企業との共同研究が始まった段階で行うべきと判断している。ゆえに、動物由来細胞からヒト由来細胞へと対象を推移させ、ヒト由来細胞についても同等の効果があることを証明することが最も実用化の近道であると判断した。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度以降の研究費は、主に実験用消耗品(薬品・ガラス器具類、実験用原材料)および成果発表(国内外発表、論文別刷)に利用する。テクスチャリング技術の曲面への対応については、高額な設備費が必要であるため、初期は既存設備の改良で対応する。
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