研究課題/領域番号 |
23659728
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
中西 義孝 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (90304740)
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研究分担者 |
三浦 裕正 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10239189)
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キーワード | 人工関節 / 生体反応 / 摩耗 / ポリエチレン / 研磨 / 合金 / テクスチャリング |
研究概要 |
人工関節の軸受材料である超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の摩耗粉は骨融解やそれに伴う人工関節のゆるみなどの原因となる。これは白血球の1つであるマクロファージが摩耗粉を貪食し、炎症系のサイトカインを放出するからである。摩耗粉のサイズが1.0μm以下になるとその現象は顕著となり、その摩耗粉総量により反応の大きさが変わってくる。本研究の目的は、UHMWPEの相手面材料として利用されているCo-28Cr -Mo合金の研磨法を工夫し、摩耗粉の肥大化と総摩耗量の抑制を両立させるテクスチャリングパターンを見出すことである。去年度の成功事例を踏まえ、本年度はUHMWPEの摩耗粉肥大・総摩耗量抑制機構を解明し、さらなる効果を生むテクスチャリングパターンの発見に努めた。テクスチャリングパターンは幾何学的な指標を使い整理した。一般的な人工関節表面を再現したG-1(Ra=10nm)と比較し、UHMWPEと接触する凸部の粗さをRa=1nm程度に小さくし、深さ50nm以下のディンプルや溝を付与した表面をP-1、P-1のディンプルや溝の付与率を順次減少させたものをP-2~P-4、P-2の表面プロファイルを横方向に広げ、表面うねり成分を順次強調したW-1とW-2と整理した。これらの面は一般的なラッピング装置を利用し、加工条件を変えるだけで創成できることを例証した。Pin-on-disc装置による摩耗試験により、去年度に炎症性サイトカイン(IL-6)の発現の抑制に成功したW-1と比較し、総摩耗量が50%以下となる面(P-1)を見出すことができた。これらの結果より、切削性摩耗を抑制するため凸部の粗さをRa=1nmまで小さくする必要はあるが、これに伴う凝着性摩耗を抑制するためのディンプルや溝は面積占有率3%以下で良いことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに得られた研究成果(テクスチャリング面)を実際の人工関節面に合わせた曲面に展開する方法を見出している。1つは砥粒の改良であり、2つめは研磨法の抜本的変更である。砥粒の改良においては、去年度まで2~5μmの砥粒を利用してきたが、この砥粒サイズを適用しつつナノメートルレベルのテクスチャリングを施すには多大なる時間が必要であった。本年度は砥粒サイズをナノメートルサイズまで極小化し、超微細加工の効率を向上させることに成功した。これは製品化の際の製造コストに直結する。研磨法については従来、遊離砥粒法が有効かつ簡便であったが、人工膝関節のような自由曲面に対応するため、砥粒噴射方式への移行を行っている。遊離砥粒法により10nm程度の平滑面まで処理した後、砥粒を分散させたスラリーを高速噴射するとともに、噴射部位を数値制御できるようになり、的確なテクスチャリングの実現と加工作業の効率化に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
摩耗試験で利用している潤滑液として現在、牛血清と同じ境界潤滑性能を持つ模擬関節液を利用している。実験結果のバラツキが少なく、基礎的な試験では非常に有用な液体であったが、これまでの研究報告に対する議論の中で、世界的な基準である牛血清への切り替えが、世界的にも理解を得やすいとの結論に達したため、現段階の結果がまとまった時点で、切り替えを行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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