研究課題/領域番号 |
23659729
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
古川 昭栄 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (90159129)
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研究分担者 |
福光 秀文 岐阜薬科大学, 薬学部, 講師 (00308280)
宗宮 仁美 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (20548713)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 脊髄損傷 / 間葉系幹細胞 / 運動機能 |
研究概要 |
1)ヒトのFIF様細胞について:これまでにラット脊髄から培養した線維芽細胞様細胞(FIF細胞)に強力な脊髄損傷修復効果があることを見出している。平成23年度はヒトのFIF様細胞をiPS細胞から樹立することを計画したが、その研究過程で、FIF細胞に類似の間葉系細胞の性質を持つヒトの特定細胞(知財保護の観点からヒトX細胞)を見出した。基本培地で増殖させたヒトX細胞を脊髄損傷モデルラットの損傷部に移植したところ、明らかな運動機能の改善が認められた。そこでさらに培養して細胞の均質性を高めてから移植すると、運動機能がさらに大きく改善した。2)サル脊髄からのFIF様細胞の樹立:ヒトの脊髄に機能的なFIF様細胞が存在するかどうかは脊髄損傷治療法の確立に必要な情報である。しかしヒトの脊髄を材料として用いることは不可能であるためサルの脊髄を用いて検討している。サルの脊髄は京都大学霊長類研究所との共同研究により提供を受けている。まだ例数は少ないが、サルの脊髄からFIF細胞に形態学的に類似した細胞を調製することに成功している。今後は、サルの例数を増やし、複数の個体由来の細胞を調製すること、ラット脊髄損傷モデルに移植することによって運動機能改善作用を検討する。3)FIF細胞の移植時期の検討:FIF細胞を機能させるには受傷後いつまでに移植すればよいのか、医学的応用のためには重要な問題である。ラットの脊髄損傷直後、1、3、7または14日後にFIF細胞を移植し、運動機能回復を調べた。その結果、1、3日後に移植すると損傷直後と同じかそれ以上(3日後)に運動機能は回復するが、7又は14日後に移植してもほとんど回復しなかった。このことより、FIF細胞の移植療法は受傷から3日以内なら効果があり、特に3日後に移植すると最大の効果が得られることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度はiPS細胞からヒトのFIF様細胞を樹立することを計画していた。その理由は、ラットの場合、FIF細胞は脊髄から培養が可能であるが、ヒトの脊髄組織は入手が不可能なためである。しかし皮膚など採取可能な組織から調製したヒトの細胞をiPS化することは思いのほか容易ではなく、維持にも困難が伴う。そこで現実的な方法としてiPS化されたヒトの細胞を購入し、FIF細胞へと分化させることとした。しかし、この研究を推進する過程で、FIF細胞に類似の間葉系幹細胞の性質を持つヒトの特定細胞(知財保護の観点からヒトX細胞と呼称)が、ラットのFIF細胞と類似の形態や遺伝子発現様式をもつことがわかった。そこで、基本培地で増殖させたヒトX細胞を脊髄損傷モデルラットの損傷部に移植したところ、明らかな運動機能改善が認められた。さらに培養法を工夫して細胞の均一性を高めてから移植するとさらに高い運動機能改善が認められた。平成23年度の研究目的は、「ヒトのFIF様細胞の樹立」であったので、ヒトX細胞の発見は、iPS細胞を経由するよりもはるかに容易にしかも個体別にFIF様細胞の調製を可能とした。当初の計画にはなかったが、サルの脊髄からFIF様細胞の樹立を試みた。ヒトの脊髄にFIF様細胞の存在を証明できれば、細胞移植ではなく内在する患者自身のFIF細胞を制御することによって脊髄損傷修復を達成できるかもしれない。培養したサルの脊髄から、ラットFIF細胞と形態の類似した細胞を得ることに成功した。今後、ラットの損傷部位に移植して機能性を検討する。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトの特定細胞(知財保護の観点からヒトX細胞と呼称)が、ラットのFIF細胞と類似の形態や遺伝子発現様式をもつことがわかった。しかも脊髄損傷モデルラットの損傷部に移植すると運動機能改善をもたらすことから、機能的にFIF細胞と同等の機能を持つ細胞であると結論できる。平成24年度は、第一に、このヒトX細胞に高い運動機能回復能を賦与する方法について、1)培養の方法、2)培養液に添加する因子の選別、3)細胞移植法、4)軸索再生の足場などを検討する。また、サル脊髄由来のFIF様細胞を脊髄損傷後のラットに移植し運動機能を改善する効果があるかどうかを検討する。ヒトX細胞とサルFIF様細胞の移植によって脊髄損傷後の運動機能の回復したラットについて回復のメカニズムを明らかにするため、1)軸索再生の有無、患部における細胞の分布等を免疫組織化学的に解析する、2)逆行性、順行性の軸索トレーサーを注入し、軸索再生を証明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
1)高い運動機能回復能をもつヒトX細胞の調製法の検討 (1)培養器具、培養液、培養器へのコーティング基質などの購入に20万円程度必要、(2)培養液に添加する因子として、間葉幹細胞の増殖因子であるFGF-2、EGFなどの成長因子の効果を検討するために30万円程度必要。(3)培養細胞を患部に移植する際、コラーゲン、マトリゲルなどの軸索再生の足場となる分子の効果を検討するために20万円程度必要。(4)モデル動物作製にラット約50頭を使うので、10万円程度必要。2)サル脊髄由来のFIF様細胞を脊髄損傷後のラットに移植し運動機能を改善する効果の検討 (1)細胞培養費用として5万円、(2)動物代としてラット50頭分で、10万円程度必要。3)細胞移植によって運動機能を回復したラットを組織化学的に解析し、作用メカニズムを明らかにする (1)軸索再生の有無、損傷患部における細胞の分布等を免疫組織化学的に解析するため、細胞マーカーの特異抗体や蛍光標識二次抗体などの購入費として15万円程度必要、(2)再生軸索を可視化するための逆行性、順行性の軸索トレーサーの購入費として10万円程度必要である。
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