研究課題/領域番号 |
23659734
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
伊藤 和幸 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立成人病センター(研究所), 研究所, 部長 (20301806)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 骨肉腫 / 肺転移 / 標的治療 |
研究概要 |
骨肉腫を始めとする骨軟部腫瘍の予後は、肺転移により最も大きく左右される。最近転移成立には腫瘍側の要因のみならず、宿主側とりわけ骨髄の役割が大きくクローズアップされている。本年度は、骨肉腫の起源細胞と考えられる間葉系幹細胞の骨分化過程における、細胞運動様式、運動能の変化のメカニズムをマウスを用いて論文報告した(FEBS Lett, 2011) 一方我々が樹立報告したマウス骨肉腫高肺転移株LM8は、10E6-7個を同系マウスに皮下移植すると4-5 週目で肺転移にて全例死亡する。皮下移植にて全く肺転移を起こさない親株Dunnとの比較において下記の実験結果を得た。1. 雄由来のLM8, Dunnを雌の同系C3Hマウスに移植後経時的に種々の臓器よりDNAを抽出し、Y染色体特異的遺伝子sry発現をPCRにて検討した結果、LM8では移植後3週目に肺で、4週目に血液で、Dunnでは4週目に肺と血液で検出されたが、共に骨髄内では検出されなかった。2. 血中の生細胞のみを培養する方法を用いて血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cells, CTCs)数を検討すると、LM8群はDunn群に比べ、CTCsがより早期に、より頻度が高く、より数が多く検出できた。3. 培養血管内皮細胞上にLM8, Dunnを重層し腫瘍細胞が血管内皮細胞に浸潤するextravasation を模倣したtransendothelial migration assayのビデオ撮影を行い、LM8はDunnに比べ約2倍運動能が高かった。また単位時間当たりの血管内皮細胞の分裂回数を比較するとLM8がDunnに比べ約2倍多かった。以上の結果より、LM8、Dunn共に骨髄内へのhomingはなく、転移先である肺血管内皮細胞での浸潤能に大きな差があり、肺への転移巣形成に大きく関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は動物実験において、骨肉腫肺転移に関する詳細な経時的な解析システムを開発した。結果として皮下移植後LM8、Dunn共に骨髄内へのhomingはなく、転移先である肺血管内皮細胞での浸潤能に大きな差があり、肺への転移巣形成に大きく関与していることが示唆された。今後、骨髄の転移先での浸潤や、肺内での腫瘍細胞のhoming, 増殖への関与を検討する実験系を構築していく。
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今後の研究の推進方策 |
骨肉腫肺転移に関する因子として、骨髄以外に肺組織における増殖や、内皮細胞を通過するステップ、さらに、転移先臓器である肺内での増殖が重要であることが判明してきたので、骨髄細胞の関与に限定せず、広く標的になる分子を検索し、新規の治療法の開発を模索したい。とりわけ原発巣と考えられる皮下と転移先の肺ではその組織の硬さ(皮下では1000Pa, 肺内では150Pa程度)、酸素分圧(肺では高値)等が大きく異なるので、それらを模倣した実験系を樹立し、LM8, Dunnの比較を行っていく予定にしている。下記のメンバーとチームを作り全体の研究を遂行する。連携研究者 吉川秀樹(大阪大学医学部整形外科教授)- 全体のまとめ、臨床応用、大学院生の派遣研究協力者 田中太晶、若松透(大阪大学医学部整形外科大学院生)- マウス動物実験 笹川覚、吉岡潔子(当部門研究員)- 細胞培養実験, in vitro実験
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次年度の研究費の使用計画 |
主としてマウスを用いた動物実験を行い、得られた結果よりin vitroの細胞実験系を開発し、転移のkey stepを探索する。具体的には、本年度の科研費で購入した倒立型顕微鏡下での細胞の画像解析システムを用いて、転移に関与する種々の分子に対して、低分子化合物(阻害薬)やsiRNAによる発現抑制、発現ベクターによる高発現を行った際の骨肉腫細胞の動態を解析して行きたい。実験設備は既に構築されているので、今後は分子生物学実験や培養に必要な消耗品や、試薬等を中心に研究費を使用し、得られた成果に関しては、国内外での学会発表を行うと共に、論文発表を行って行く予定で、それらに関する費用も科研費より使用したい。
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