研究課題/領域番号 |
23659753
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
五十嵐 辰男 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70302544)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / イスラエル / 米国 / オランダ / スエーデン |
研究概要 |
仮想空間上に男性下部尿路のモデルを作成し、流体解析ソフトを用いて前立腺部尿道における尿流動態を定常流及び非定常流の条件で解析した。前立腺肥大症では前立腺部尿道の遠位部背側に渦流が発生し、これが排尿エネルギーの損失に関連する事が示唆された。尿道膀胱鏡ビデオ映像から尿道壁の振動を抽出し、フーリエ変換により振動周波数の解析を行い、8Hz付近に特有の周波数帯があること、および健常者と前立腺肥大症患者で差がある事を見出した。前立腺肥大症患者約40例のαー1ブロッカーを投与前、投与4週間後に尿道鏡を行い、尿道鏡映像から前立腺内腔の立体形状を再構築し、流体シミュレーションを行った。その結果、下部尿路モデルで見出した部位と同様の部位に渦流の発生を確認した。前立腺部尿道背側の拡張により、渦流の消失と流体エネルギー損失の改善が認められ、この程度が残尿量の軽減と相関する事を確認した。この研究成果は従来明らかでなかった、前立腺肥大症における排尿障害の発生機序を、世界で初めて前立腺部尿道局所の流体解析により明らかにしたものである。これにより今後排尿障害の原因部位の特定が可能になると思われる。このことは前立腺肥大症患者の治療法の選択や、現在より低浸襲治療法の開発及びオーダーメイド治療の可能性を示すものであり、前立腺肥大症診療に対して重要な意義があると考える。またこれに関連して、体腔内を多量の液体で満たした際の臓器周辺の流体シミュレーションを行い、手術操作が可能であることを確認し、動物実験でこれを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
下部尿路モデルを用いて行った連成解析手法による、排尿時の下部尿路の変形と尿流変化の計算結果が、臨床データと整合性を持つことが確認できた。ヒト尿道膀胱鏡ビデオ映像の集積が順調に進み、約40例、80尿道のデータを解析する事が出来た。現在の内視鏡ビデオ映像演算処理法により作成した仮想尿道内視鏡画像を用いた、前立腺部尿道内尿流計算により算出した尿流エネルギー損失量の相対値が、残尿量と相関した事により、現在までに培った手法の信頼性が担保されていると考える。尿道内尿流シミュレーションのvalidityを、膀胱頸部硬化症のプラスチックモデル作成して、実際に粉体を混じた水流により検証した。その結果、同疾病モデルと同様な部位に渦流を確認し得た。断続的な灌流下中の膀胱尿道鏡ビデオ映像から尿道の振動を抽出する手法を開発した。これにより、特徴的な周波数帯の同定を行った。少数例ではあるが、前立腺肥大症症例の手術前後で尿道表面振動周波数の変化および、術後の尿道振動周波数と膀胱結石を有する若年者尿道の振動周波数がほぼ等しい周波数帯にある事が判明した。これより、灌流下の尿道振動は、前立腺部尿道の病態を反映しているものと推測された。
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今後の研究の推進方策 |
尿道振動周波数帯の解析に関しては、症例数を増やして検討を加える。排尿に関して、前立腺部尿道の形状以外に、膀胱底面の形状も検討項目に加えてシミュレーションを行う。前立腺肥大症症例の尿道形状再構築手法について、現在行っている手法の再現性に関する検証を加える。現在は硬性内視鏡を用いているが、浸襲性の軽減の為軟性内視鏡による画像処理による精度評価を行う。また内視鏡の動きによる尿道との相対的位置の変動による、尿道形状再現性の検証を行う。排尿の非定常モデルにおいて、尿道内の任意の部位に圧・流速観測点を設定し、排尿反射継続のためにもっとも有効なポイントの検索を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
流体解析ソフトのライセンスの購入に50万円、演算装置の更新に10万円、国内学会の旅費に5万円、海外学会旅費に15万円を充当する。
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