研究課題/領域番号 |
23659753
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
五十嵐 辰男 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70302544)
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キーワード | 細径内視鏡 / スエーデン |
研究概要 |
CADと数値流体計算ソフトをもちいて前立腺肥大症患者の前立腺部尿道モデルを作成し、内腔を流れる尿流のシミュレーションを行った。これにより前立腺の尿道内腔への突出が高度になるにつれ、前立腺部尿道背側の閉塞が強くなり、同部の遠位部に渦流の形成とエネルギー損失が生じることが推測された。また渦流とエネルギー損失の程度が相関することも判明した。次いで排尿障害を有する前立腺肥大症患者の尿道内視鏡映像から、前立腺部尿道の立体構造を作成し、同部の尿流動態シミュレーションとともに、エネルギーの損失を計算した。前立腺肥大症の標準的治療薬であるα受容体遮断薬による治療を行った前後で、計算結果と排尿障害のパラメータの比較を行い、たとえば残尿量や最大尿流量率の改善とエネルギー損失の改善との間に相関を認めた。これより本手法は前立腺部尿道内腔で生じている尿流状態を推測する方法として妥当と考えた。 前立腺部尿道の渦流形成部位がエネルギー損失責任部位と仮定した場合、排尿障害の治療上、渦流形成に関する尿道の変形部位の同定が必要であるので、α遮断薬服用前後の前立腺部尿道の断面図を比較するソフトを作成し、約30例の尿道について検討を行った。その結果排尿障害改善例では前立腺部尿道遠位部の拡張が認められることが分かった。このことは前立腺肥大症における排尿障害に前立腺部尿道の尿流エネルギーの維持が重要な役割を持つこと、および排尿反射の維持に関与する可能性が示唆された。 膀胱頸部の弾性や閉鎖機能の評価を目的に、尿道内に固定した内視鏡による灌流液注水下の映像を撮像し、膀胱頸部の輪郭抽出をフレームごとに行い同部の振動を抽出した。振動の抽出は可能であることが判明し、現在振動数のフーリエ解析を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の1.内視鏡ビデオ映像処理により内腔の立体形状、弾性、尿道壁の振動周波数を抽出し、可変系モデルの作成、2.流体シミュレーションにより渦流の発生する部位、大きさ、対称性などの計測、3.渦流の性状と抵抗との関連性を求める、4.尿道壁の振動周波数と渦流の発生及び流体に対する抵抗の変化の解析、5.可変形モデルによる時系列での尿流変化と尿道抵抗の変化の検討、のうち、1、2、3、5.はある程度達成できた。5.の可変形モデルの作成と、これをもちいた非定常流での流体解析に関しては、可変形モデルでは非変形モデルでの計算結果より生理的に整合性のある結果が得られることが判明した。一方計算時間を考えると、臨床データの処理には非変形モデルでの計算結果を用いることが現実的と考えられた。1.2.に関して内視鏡ビデオ映像から再構築する尿道内腔の立体形状は、尿道の色調に影響を受けるので、より正確な計算にはこの補正が必要であることが判明した。尚、当初ブタの尿道をもちいた精度評価を考えていたが、尿道径が狭いこと、および内視鏡の準備が十分でないためまだできていない。また出血時の血液による「霞み除去」は赤血球と背景のヘモグロビンの色調の分離が難しく、達成できていない。代わりに灌流方向と液量の制御により視界の確保ができ、今後この方法を中心とする予定である。 4.はこれまでの研究で、前立腺部尿道の振動抽出と排尿障害に関連性があると思われる低周波数帯域を推定できていたが、計測条件の影響を受けやすいため、膀胱とのコントラストが明瞭な膀胱頸部を対象として画像処理条件の変更を行った。その結果、安定した振動周波数抽出が可能となったが、周波数帯域が異なるようであり、再度データの集計を行っている。尚、当初ブタの尿道をもちいた精度評価を考えていたが、尿道径が狭いこと、および内視鏡の準備が十分でないためまだできていない。
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今後の研究の推進方策 |
尿道内尿流シミュレーションの精度を上げるため、尿道の色調のクラスタリングによる内腔再構築時の「歪み」補正を引き続きおこなう。現在約40例の排尿障害を有する患者の治療前後の尿道内視鏡映像が集積されたが、映像ファイル数をさらに増やし、本手法の有効性の検証を行う。また排尿障害を有する症例のほか、蓄尿障害を有する症例および対象群の膀胱頸部を固定した内視鏡をもちいて撮像し、膀胱頸部の振動と蓄・排尿機能と比較することで振動周波数と病態との関連性を検討する。おそらく振動を構成する成分は粘膜自体の振動と、間質成分の振動および、筋収縮による振動から構成されると思われるので、振動周波数解析によりこれらを分離同定し、蓄・排尿機能との関連性を検討する。これにより蓄・排尿時の膀胱頸部から前立腺部尿道にかけての運動を推測し、蓄・排尿反射時の下部尿路モデルを作成し、排尿反射終了における尿道内尿流の役割を推測する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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