研究課題/領域番号 |
23659758
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
坂本 浩隆 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (20363971)
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研究分担者 |
松田 賢一 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (40315932)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 泌尿器科学 / アンドロロジー / 男性性機能 / 勃起障害 / アンドロゲン / 神経 / ホルモン / 脊髄 |
研究概要 |
これまでに我々はラットを用いた基礎研究から、神経ペプチド gastrin-releasing peptide (GRP) を含むニューロンが、脊髄内に複雑な神経回路を雄特異的に構築し、勃起を含む男性(雄)の性機能を生理的に調節していることを発見した(Sakamoto et al., Nature Neuroscience, 2008)。本研究では、この新規に同定した脊髄内勃起中枢をターゲットとして、勃起障害(ED)の病態生理メカニズムを解析する。本研究の発展により、EDの原因究明・治療法開発に新規のアプローチ法を提案できる。既に我々は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのストレス疾患モデル動物を用いた研究から、トラウマ的ストレス負荷が脊髄GRPニューロンシステムを破綻へ導くことを明らかにしつつある(Sakamoto et al., PLoS ONE, 2009)。そこで本研究では、異なる要因であるストレス性および内分泌性ED、それぞれの発症メカニズムを比較検討することにより、普遍的な中枢神経性EDの発症メカニズムを、中枢神経系をターゲットとして解明することを目的とする。まず、雄の性機能の評価として、ラットを用いて性行動中の神経活性をFosタンパク質の発現を指標に解析した。その結果、性機能を司る脊髄GRPニューロンが、雄の性行動中に活性化されることが明らかとなった。次いで、性機能に関わる脊髄局所神経回路を明らかにする目的で、超高圧電子顕微鏡下で免疫二重電顕を試み、コンピュータートモグラフィー法を応用した超微神経形態の三次元立体再構築法を確立した(Oti et al., Histochemistry and Cell Biology, in press)。今後は、EDモデルラットを用いて、脊髄GRPニューロンシステムについて詳細な解析を展開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性機能を司る脊髄GRPニューロンシステムについて精力的に以下に示す解析を行った。(1)ラットを用いて性行動中の神経活性をFosタンパク質の発現を指標に解析した結果、性機能を司る脊髄GRPニューロンが、雄の性行動中に活性化されることを明らかにした。(2)脊髄GRPニューロン線維は、射精に関わると考えられており、GRP受容体を発現している自律神経核(SPN)へと投射している。我々は、脊髄GRPニューロンからSPNへの軸索の投射を、超高圧電子顕微鏡(岡崎生理学研究所;HVEM)を用いて、超微形態レベルで解析した。HVEMは数μmの厚さを持つ切片を超微形態レベルで解析することができる。雄ラット脊髄において、GRPとSPNのマーカーである神経性一酸化窒素合成酵素(nNOS)に対して二重免疫電顕法を行い、脊髄GRPニューロン線維のSPNへの入力を明らかにした。今回、一方の免疫組織化学法をナノゴールド-銀増感法で、また他者を従来のジアミノベンジジン法によって、超高圧電子顕微鏡下で2者を区別する免疫二重電顕法を応用し、三次元立体再構築による効率的な解析を行う先端的技法を確立した。上記のように、本研究により種々の新知見および新技法の確立を行うことができ、研究はおおむね順調に進展しているものと自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)超高圧電子顕微鏡下、二重免疫電顕技術を応用したコンピュータシミュレーター・三次元立体再構築法を用いて、脊髄GRPニューロンを指標にし、脊髄内各種神経ネットワークを詳細に解析する。さらに、EDモデルラットを用いて、脊髄GRPニューロンシステムについて詳細な解析を行う。(2)GRP遺伝子プロモーターの下流に緑色蛍光タンパク質 (Venus) のcDNAを繋いだ遺伝子のトランスジェニック (GRP-Venus Tg) ラットを作出する。GRP-Venus Tgを用いれば、生きた状態でGRPニューロンを選択的に蛍光標識することが可能となり、GRPニューロンの応答生理のin vivoでの解析が実現できる。まず、GRP-Venus Tgラットの遺伝子コンストラクトを作製し、遺伝子のマイクロインジェクションを行いGRP-Venus Tg ラットを作出する。なお現在、ラットGRPプロモーター遺伝子のクローニングまで既に終了している。GRP-Venus Tg ラットにおいてGRP系を中心とした脊髄内神経ネットワークを生きた状態で詳細に解析する。以上の解析を通して、GRPニューロンシステムを中心とした雄の性機能を制御する脳-脊髄間神経ネットワークとその動作メカニズムを解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の多くは実験動物、生化学試薬、分子生物学試薬、ガラスおよびプラスチック器具、ホルモンアッセイキットなどの研究物品の購入費として使用する。また、得られた研究成果を学会・研究会等で積極的に発表する際の旅費に充てる。研究分担者(松田賢一(京都府立医科大学))との研究打合せに必要な相互往来の旅費にも用いる。なお、次年度の使用計画においても各費目(物品等、旅費、人件費・謝金等)が全体の研究経費の90%を超えることはない。
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