前立腺癌の多くはアンドロゲン感受性癌であり、抗アンドロゲン剤等によるアンドロゲン遮断療法が有効である。しかしながら、こうしたホルモン療法は初期の段階では有効であるが、ほとんどの患者でアンドロゲン依存性の消失にやがて至る例が大多数を占める。そこで、ホルモン療法抵抗性前立腺癌で高頻度でみられるアンドロゲン受容体(AR)点変異体(T877A)導入モデルマウスを確立し、前立腺癌の発癌と増悪に対する以下の知見を得た。 1、 マウスAR遺伝子座に、ヒト型AR点変異体(T877A)cDNAを接続し、loxP配列を2箇所導入したターゲティングベクターを構築し、定法によりAR点変異体floxマウスを作製した。このfloxマウスと時期誘導性前立腺上皮細胞特異的Cre-ERT2(PSA-Cre ERT2)マウスを交配し、成体期の前立腺上皮細胞のみでAR点変異体が発現するモデルマウスを樹立した。 2、 AR点変異導入マウスでは前立腺過形成が観察され、抗アンドロゲン剤であるタミフルや他種ステロイドホルモンに応答した結果、前立腺の増殖が亢進することを見出した。一方、AR点変異を単独で導入しただけでは前立腺癌は発症しなかったことから、AR点変異導入は発現のプロセスには寄与していないことが判明した。 3、 前立腺癌発症(TRAMP)マウスとAR点変異導入マウスとの交配により、腫瘍増殖が亢進した。一方、Wnt5aヘテロ欠損マウスのgenetic backgroundではAR点変異導入によって誘起される前立腺癌の増殖がキャンセルされたことから、非古典的Wntシグナルが癌増悪に関与している可能性が示された。 4、 前立腺癌検体におけるWnt5aの発現を検討した結果、多くの進行性前立腺癌においてWnt5aの発現亢進が確認された。
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