研究課題
これまでに卵巣癌のがん化過程には、癌遺伝子や癌抑制遺伝子のエピジェネティクス異常が数多く報告されている。申請者はメチル基供与体の合成酵素遺伝子MAT2Aが卵巣癌において過剰発現することを見出しており、MAT2A遺伝子が卵巣癌のエピジェネティクス異常を引き起こす可能性が考えられる。 本年度は、卵巣癌細胞株においてRNAiを用いたノックダウン実験でMAT2A遺伝子の機能抑制を行い、細胞増殖が有意に抑制されることを見出した。さらに、MAT2Aの阻害剤であるシクロロイシンを添加して卵巣癌細胞の培養を行ったところ、濃度依存的に細胞増殖が抑制された。これらの結果は、MAT2A遺伝子の過剰発現が卵巣癌細胞の増殖を促進することを示すとともに、シクロロイシンが卵巣癌の治療薬として使用できる可能性を示唆するものである。 また、卵巣癌におけるMAT2A遺伝子のターゲットを探索するため、real time PCR法を用いて数十種類の癌遺伝子および癌抑制遺伝子の発現定量解析を行った。その結果、癌抑制遺伝子としてよく知られているRB1遺伝子の発現が卵巣癌において有意に抑制されていることを見出した。さらに、RB1遺伝子のプロモーター領域のDNAメチル化を解析したところ、高メチル化状態であることが明らかとなった。以上から、MAT2A遺伝子の過剰発現はRB1遺伝子のプロモーター領域の高メチル化を引き起こし、癌化を促進する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成23年度の研究実施計画である「in vitroにおけるMAT2Aの卵巣癌増殖への影響の解析」および「MAT2Aのターゲット遺伝子探索」はほぼ予定通り終了した。
MAT2Aの阻害剤投与実験を行うことで、MAT2A阻害剤の臨床応用への可能性を探る。また、摘出卵巣癌組織を用いてMAT2A、DNMTsの標的遺伝子の発現量解析とエピゲノム解析を行う。さらに、患者基本情報に照らし合わせ、年齢、組織型、進行期、生命予後などについて、統計学的な検定を行ない、メチル化異常の発症機序について検討する。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成24年度請求額と合わせ、次年度に計画している研究の遂行に使用する予定である。
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Int J Cancer.
巻: Epub ahead of print ページ: -
Internationa Journal of Gynecologic Cancer.
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