研究課題
脳性小児麻痺(CP)は、低酸素イベントとこれに続く一連の脳損傷過程を経て病態が形成される。このCPの形成過程は神経細胞の障害からの回復過程でもある。最近、中枢神経には黄体ホルモンとその代謝物を含む多くの神経ステロイドが存在すること、黄体ホルモン投与が外傷や虚血による脳損傷からの回復を早めることが明らかにされている。そこで、黄体ホルモンのCP予防効果について、ラットモデルを用いて検証することを目的として研究を行った。平成24年度の研究により、妊娠母ラット(18.5 d.p.c.)に子宮動脈の駆血(45分、30分)を行い、出生後に連日黄体ホルモン投与(0.1mg/day)を実施し、10日齢で脳の組織学的評価および行動評価を実施するモデルを確立した。子宮動脈駆血新生仔ラットでは、脳室の拡大・透明中隔の肥厚が認められ、大脳の発育過程の遅延が認められた。出生後のプロゲステロン投与により、これらの解剖学的変化を軽減し、体重増加量も増加した。また、哺乳ぶら下がり時間(母ラットを持ち上げた際に、哺乳中の新生仔が自然落下するまでの時間)および腹臥位復帰時間(新生仔を背臥位に保定してから手を離し、腹臥位への復帰までに要する時間)を短縮させた。プロゲステロンの治療効果を示唆する結果が得られたことから、現在、これらのCPモデルラットについて、ラットの成熟を待ってオープンフィールド試験とトレッドミル試験によりプロゲステロン投与の長期的な治療効果の確認を行う準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
研究計画書では、「低酸素症となった新生児に黄体ホルモンを投与する」ことでその後に起こる脳損傷を予防・軽減できるとの仮説を立て、最近確立された新生仔ラットCP モデルを用いてその治療効果を検証することを目的とした。今回の成績は、当初予定していた最近報告された新生児ラットCPモデル(LPS虚血モデル)の再現ができなかったものの、従来より報告されていた新生仔ラットCPモデル(虚血モデル)を用いて、所期のプロゲステロン投与の効果を示すことができた。したがって、期待通りの進展と言える。
当初の計画では、治療効果を成熟後のトレッドミル試験とオープンフィールド試験で行うこととしていた。今回の検討から、新たな評価指標として「哺乳ぶら下がり時間」と「腹臥位復帰時間」を用いることにより、これより短い期間(10日齢)の飼育での評価も可能であることが判明した。そこで、10日齢ラットの大脳標本の病理学的解析をおこなって、プロゲステロンの治療効果の機序を明らかにすることを目指す。
10日齢までのラット新生仔脳標本を経日的に作成し、組織学的染色を行なってプロゲステロンの治療効果の機序を推定する。固定標本からの薄切スライドの作成は外注となるため、その費用に充てる。また、免疫染色用抗体の購入費用に充てる。
すべて 2012
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Int J Gynecol Pathol.
巻: 31(3) ページ: 227-35