研究課題/領域番号 |
23659774
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
笹岡 利安 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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研究分担者 |
恒枝 宏史 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (20332661)
和田 努 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (00419334)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ホスファターゼ / インスリン抵抗性 / 妊娠糖尿病 / エストロゲン |
研究概要 |
生活習慣の欧米化や晩婚化に伴い妊娠糖尿病は増加している。妊娠中の代謝異常は周産期・新生児合併症の増加に加えて将来母体や児の2型糖尿病の発症に影響することからも対策が必要とされる。本研究では、中枢のホスファターゼ活性を適切に制御することで、妊娠中の食欲亢進とインスリン抵抗性を改善するための新たな方策の確立を目的とした。 全身のエネルギー代謝やインスリン感受性は視床下部により統合制御されており、末梢組織からインプットされる中枢でのレプチンやインスリン作用は視床下部でのホスファターゼにより調節されている。本研究により、チロシンホスファターゼPTP1Bが中枢でのレプチン作用を主に制御するのに対し、リピッドホスファターゼSHIP2は中枢のレプチン作用に影響を与えずにインスリン作用を制御することで、全身のエネルギー・糖代謝を調節する成績を得た。 また、エストロゲン(E2)の中枢作用も検討した。E2は妊娠の維持に必要であるが、妊娠時に認められる高濃度のE2はインスリン抵抗性を誘導し、妊娠糖尿病の発症にも関わる。生理的なE2は中枢神経系を介して内臓および皮下脂肪の分解を促進し、肝糖新生を抑制し、エネルギー消費を亢進することで全身のエネルギー・糖代謝を亢進するとの知見を得た。さらにうつと不安の行動学的試験により、E2は中枢作用を介してこれらの精神症状に関わる可能性が示唆された。 以上より、中枢のチロシンホスファターゼPTP1Bの制御により食欲を調節し、また、リピッドホスファターゼSHIP2の制御により全身のエネルギー代謝を調節することで、妊娠中の糖代謝やインスリン抵抗性を制御できる可能性が考えられる。今後、さらに中枢のE2作用における視床下部でのホスファターゼの役割を明らかにし、中枢選択的なホスファターゼ作用阻害による妊娠糖尿病への介入のための基礎的基盤を確立することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中枢のホスファターゼの阻害により、妊娠糖尿病および仔の代謝異常に対して新規治療法策の開発を目指して研究を推進した。中枢のチロシンホスファターゼPTP1Bは、レプチン作用を制御するのに対し、中枢のリピッドホスファターゼSHIP2はレプチン作用には影響せず、インスリン作用を特異的に制御することで、全身のエネルギー・糖代謝を調節することを明らかにした。また、妊娠の維持と妊娠糖尿病に深く関わるE2の中枢作用は、全身投与した場合と同程度の糖代謝への影響を認めた。その機序として、中枢のE2は、脂肪分解の亢進、肝糖新生の抑制、エネルギー消費の亢進作用を強く有するとの知見を得た。さらに神経機能の評価のための行動学的試験として、うつ・不安の解析のために尾懸垂試験、強制水泳試験およびオープンフィールド試験、明暗箱試験、高架式十字迷路試験を行った。その結果、卵巣提出マウスにおいて、E2の中枢投与はうつと不安を改善する傾向が認められ、今後これらのE2作用とそのメカニズムにつき、ホスファターゼとの関連を含めて検討することとした。 以上、本研究課題の達成に向けて、ホスファターゼの中枢作用の特徴と差異を明らかにし、妊娠の維持と妊娠糖尿病に関与するE2の中枢作用に関し、全身のエネルギー・糖代謝への影響と、精神神経機能として不安・うつへの影響を明らかにした。以上、本研究目的の達成に向けて研究は進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度には、ホスファターゼが中枢作用を介してエネルギー・糖代謝作用に及ぼす影響を調べ、妊娠の維持と妊娠糖尿病に関与するE2の中枢作用につき、全身のエネルギー・糖代謝作用への関与と機序、さらに、E2の中枢作用を介したうつ・不安への影響を明らかにした研究成果に基づいて、平成24年度はさらに研究を推進する。特に、中枢のホスファターゼ作用として、チロシンホスファターゼであるPTP1BとリピッドホスファターゼSHIP2の作用特性の差異に着目する。ホスファターゼの中枢での阻害が、妊娠糖尿病病態でのエネルギー・糖代謝に与える影響を解明するため、siRNAと特異的阻害剤を用いた手法により研究を推進する。また、中枢のホスファターゼの阻害によるE2作用への影響に着目して、エネルギー・糖代謝とうつ・不安に及ぼす影響を解明するための研究を強く推進する。以上より、本研究目的の達成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は、継続して研究を遂行するための消耗品費と、研究成果の発表のための印刷費に使用する。消耗品費の明細としては、マウスの購入・飼育費、遺伝子解析用試薬(real-time PCR試薬など)費、ウエスタンブロット試薬費、組織学的検討試薬費、細胞培養(視床下部神経細胞や脂肪細胞など)費として使用し、研究を推進する。
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