最終年度に実施した研究成果 正常扁平上皮細胞のprimary cellであるケラチノサイトは、SCC抗原のアンチセンスcDNAの遺伝子導入が困難であったため、本年度は、SCC 抗原と結合するタンパクであるcarbonyl reductase (CR) のアンチセンス遺伝子を子宮扁平上皮癌細胞に導入し安定株を得た。この細胞の機能解析を行ったところ、細胞間接着因子のE-カドヘリン産生の低下と同時に細胞の接着が疎となり遊走能を増加させた。すなわち、SCC抗原-CR 系は、扁平上皮細胞の遊走を抑制し皮膚の層構造の肥厚促進作用を有することが示唆された。 期間全体の研究成果 本研究は、扁平上皮癌の腫瘍マーカーとして知られているSCC 抗原が、扁平上皮細胞において、細胞間接着因子の産生を増加させ、扁平上皮の層構造を維持する作用を持つことを明らかにすることを目的とした。扁平上皮では、組織中のカルシウム濃度の上昇に伴い上皮は分化して重層化する。まず本研究では、扁平上皮細胞において、細胞外カルシウム濃度変化に伴う細胞形態変化と細胞接着因子発現の変化を調べたところ、カルシウム濃度の増加によりSCC 抗原発現の増加とともに、細胞間接着因子であるE-カドヘリン発現の増加と細胞同士が密着し一部重層化する形態変化を示した。また、SCC抗原-CR 系を抑制すると、細胞間接着因子のE-カドヘリン産生が低下し、細胞接着は疎となった。すなわち、SCC 抗原はカルシウム濃度の増加変化のもとで、細胞間接着因子のE-カドヘリン産生を増加させ、細胞同士を密着させ重層化する形態変化を誘導する作用を有することが考えられた。すなわち、SCC 抗原は扁平上皮の層構造を維持することで皮膚のバリア機構に貢献している可能性がある。本基礎研究の成果により、SCC 抗原が皮膚の層構造を成熟させる治療法として発展する可能性が示された。
|