研究概要 |
男性不妊症の一つのメカニズムは造精細胞の細胞死の過剰な亢進によるとされるが、その詳細な機序は解明されていない。申請者のグループはアルツハイマー病の神経細胞死を抑制する生理的因子ヒューマニン(HN)とHN作用をもつ新たな内在性因子EHを同定し、その生物学な役割を明らかにしつつある。このなかで、数年前、1)HN/EH シグナルが精子形成に重要な役割を果たしていること、また2)神経細胞死に対するメカニズムと異なるメカニズムで造精細胞の細胞死を抑制していることを示唆する、前駆的なデータを得た。本申請ではこの研究をさらに進めて、HN/EHの造精細胞死に対する抑制作用を有することを確認すること、およびその作用メカニズムを解明し、男性不妊に果たすHN/EHシグナルの影響を明らかにすることを目的とする研究である。本研究では、最初マウスにおける男性ホルモンのアンタゴニストcetrorelixの投与による精巣における造精細胞の細胞死のアッセイ系を確立した。通常使用されるラットの1/10のマウスを用いてアッセイ系を確立する為に、精巣局所注射などの実験手技を高める必要があり、プロジェクト全体の進捗は遅かった。最終的に、cetrorelix 1mg/kgで有意な造精細胞(stage 7, 8)の細胞死が誘導される系を確立した。また、この期間中に申請者の別の研究で、生体内ではHNよりEHの方が中心的な役割を果たしていることを発見したため、EHのrecombinant proteinを大量に作製する必要が生じた為、その技術を開発した。現在、このアッセイ系を駆使してcetrorelixの投与による造精細胞の細胞死に対する、別に作製した組み替えEHと合成したHNの及ぼす効果を検証する実験を行っている。この研究の成就は今後男性不妊のメカニズムに一石を投じることが期待される。
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