研究概要 |
申請者は、精子と卵の細胞融合を促進する卵側因子として膜4回貫通型蛋白質ファミリー(テトラスパニン)に属するCD9が必須であり(Miyado et al. Science, 2000)、更に、CD9を主な構成成分とする膜構造体(exosome, エキソソーム)が存在することを明らかにしてきた(Miyado et al., PNAS, 2008)。本研究では、卵管から子宮内に存在するCD9を含むエキソソームの生理機能、特に、子宮内膜上皮の再生における役割について研究を行った。出産における子宮の機能異常については、卵特異的にCD9-GFP融合タンパク質を発現させるための外来性発現ベクターを導入したマウス(CD9-/-TGマウス)を用いて解析し、CD9-/-TG雌マウスの産仔数が野生型マウスと異なり、週齢ではなく、出産回数にともなって減少することを見出した。更に、産仔数が出産回数に依存して低下する原因としては、子宮内膜上皮細胞の出産後の再生が遅延していることを免疫組織学的に明らかにした。一般的に、CD9は、細胞接着因子であるインテグリンα6β1の補助因子と考えられているが、CD9-/-TG雌マウスの子宮内膜上皮細胞における局在は、野生型マウスと同様であり、顕著な異常を示さなかった。そこで、免疫電顕により、野生型マウスの子宮内液を調べたところ、卵エキソソームと形態的に類似した構造体にCD9が局在することが明らかになった。更に、子宮内液における液性因子を定量したところ、血管新生因子であるVEGF-Aの発現がほぼ消失していた。続いて、VEGF-AとCD9の複合体の存在と、VEGF-Aの子宮内腔への投与によって、CD9-/-TGマウスにおいて、出産後の子宮内膜上皮層が再生されることを明らかにした(Kawano et al., Sci Rep, 2014)。
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