研究課題/領域番号 |
23659794
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
伊藤 壽一 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90176339)
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研究分担者 |
中川 隆之 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50335270)
田浦 晶子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70515345)
山本 典生 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70378644)
坂本 達則 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60425626)
北尻 真一郎 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00532970)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 神経トレーサー / 機能的聴神経の再生 / 細胞移植 |
研究概要 |
順行性トレーサーを用いてラセン神経節細胞の中枢への神経軸索伸張を可視化した。平成23年度の実施計画に従って、無処置の4週齢雌ハートレー系モルモットの蝸牛軸に神経トレーサーBDAを注入し、蝸牛神経核へのトレーサーの投射を確認した。トレーサー注入手技は以下に述べる通りである。全身麻酔後のモルモットの左耳後部皮膚を切開して、中耳ブラを露出、解放し蝸牛基底回転を明視化におく。0.6 mmダイアモンドバーで蝸牛基底回転の骨壁を広く削開し、蝸牛軸を露出させる。先端の直径が100 μm程度の微細ガラス管に分子量10000の10% BDAを充満させた後、マイクロマニュピュレーターにてローゼンタール管内に0.5μlのトレーサーを注入する。閉創3日後に、4% PFA溶液にて灌流固定し組織採取した。厚さ10μmの凍結組織切片をAvidin-HRPで標識後, DAB染色を行った。蝸牛基底回転ローゼンタール管に注入したBDAの背側蝸牛神経核への投射を確認した。一方で内有毛細胞へのBDAの投射を確認し、BDAは聴神経においても順行性、逆行性神経トレーサーの性質を持つことがわかった。 次に、Na-K-ATPase阻害薬であるウアバインを蝸牛に局所投与し、聴神経の障害モデルを作成した。モデル動物は4週齢雌ハートレー系モルモットで、前述と同様に中耳ブラを解放後、正円窓にウアバイン(5 mM, 5μl)を微細ガラス管で投与し、1週間後に電気刺激による聴性脳幹反応(eABR)を測定した。ウアバインを投与した20匹中10匹のeABR閾値は600μA以上であった。組織学的にはローゼンタール管内のラセン神経節細胞の細胞体が消失していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
逆行性トレーサーを用いての蝸牛神経核と移植細胞の神経回路形成の可視化にむけて、平成23年度中に、正常モルモットの蝸牛神経核に神経トレーサーを注入して、末梢側(蝸牛側)への神経投射を確認する実験を計画していた。しかしながら、後頭開頭、蝸牛神経核の同定、およびトレーサー注入の手技の確立に手間取っており、組織評価までは至っていない。脳外科研究者とも協力して、頭部固定、開頭、さらなる清潔操作をめざす。細胞移植時に小脳を一部除去して視野を展開する方法も試してみるべきであると考えている。Sekiyaらの報告による後頭開頭アプローチにての細胞移植手技は確立された手技であり、本研究においても同手技を援用しての神経トレーサー注入は十分に可能である。 ウアバインで障害したラセン神経節細胞に、BDAトレーサーを注入して中枢、末梢ともに神経障害のためトレーサーの投射が見られないことを現在確認中である。残存神経線維数と神経トレーサーで投射される神経線維数は比例すると考えられるために、eABRの閾値と神経トレーサーで投射される神経線維数が、線形に対応するか否かの検討は今後の課題であるが、本予備実験は現状の技術で十分完遂可能である。 また、実験の主な内容ではないものの、神経トレーサー注入やウアバイン投与後の閉創手技は術後の感染、肉芽予防に極めて重要である。平成23年度の実験の当初はセルロースを主原材料とした可吸収性局所止血剤を用いて閉創していたが、肉芽形成が著しかったため側頭筋膜と筋弁を用いた閉創方法に変更してからの肉芽形成は比較的低く抑えられている。
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今後の研究の推進方策 |
ラセン神経節細胞の障害モデルの蝸牛軸にヒトiPS細胞由来神経前駆細胞を細胞移植する実験を平成24年度は施行予定である。 移植細胞であるヒトiPS細胞由来神経前駆細胞は平成23年度にMorizaneの報告による方法で未分化ヒトiPS細胞から分化させて凍結ストックを準備しており、いつでも細胞移植実験に備えられるようにしている。 ラセン神経節細胞の障害モデルの蝸牛軸に細胞移植4週後にeABR閾値を測定し、同時に神経トレーサーを注入し3日後に組織を採取する。まず、ラセン神経節細胞の障害モデル10匹に細胞移植をし、組織採取してヒト細胞核特異的抗原に対する免疫組織化学により移植細胞の生存を確認する。同一の標本から複数の凍結切片を作成するので、移植細胞の生存が確認された標本に対しては、汎神経マーカーのβIII-tubulin, NCAMに対しての免疫組織化学で神経分化傾向を評価する。神経マーカーが陽性の移植細胞が確認された標本に対してはさらに神経トレーサーの投射を抗ビオチン抗体、もしくはABC法で確認する。初回10匹の移植細胞の生存効率が低い場合は、cyclophosphamide, ステロイド等の免疫抑制剤の併用を考慮する。 神経前駆細胞の細胞移植後のヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤であるバルプロ酸の腹腔内投与により、移植細胞の生着と神経分化が促進されたとの平成22年のAbematsuの報告に従い、蝸牛軸に細胞移植する動物を生食投与群とVPA投与群の2群に分けて、神経トレーサーの伸張の差を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度使用予定の研究費の内、試薬、実験動物に要する全体に対する割合は65%である。試薬は、細胞培養に必要な薬剤と細胞移植時に使用する栄養因子などの購入費を含む。実験動物(ハートレー系モルモット)は引き続き実験の遂行に必要であり計上した。国内・国外学会での成果発表に必要な経費を計上した。また、論文発表に伴う英文校閲、論文投稿料などは本研究で得られた結果を外部に発信するために必須である。
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