研究課題
スフィンゴミエリン(SM)は細胞膜の重要構成成分と同時にシグナル分子として働くことも知られている。SMは二つの合成酵素、即ちSMS1とSMS2、によって合成され、脳においてこの二者とも発現している。本研究の予備実験に置いて、SMS1とSMS2をそれぞれ欠損させたマウスを解析し、SMS2-/-マウスの聴覚に異常が見られないのに対し、SMS1-/-マウスでは難聴が見られた。本研究では、その機構を探索することを目的としている。これまで、聴性脳幹反応実験解析により、SMS1-/-マウスの難聴は低周波数領域で起きることを明らかにした。その機構を調べるために、内耳有毛細胞を染色し、調べたところ、明確な細胞脱落が認められなかった。しかし、蝸牛血管条の萎縮が明確に認められた。蝸牛血管条は蝸牛電位を生成することで知られており、その萎縮が蝸牛電位の低下を招くと考えられる。実際に計測したところ、SMS1-/-マウスでは、有意な低下が認められた。SMS1-/-マウスの難聴は生後半年の間に年齢にしたがって悪化することも突き止めたが、その蝸牛電位も年齢に依存して低下した。従って、SMS1-/-マウスの難聴を説明する機構として、蝸牛血管条に異常が生じ、その結果蝸牛電位が低下し、蝸牛の感度が低下すると考えられる。 蝸牛電位低下の機構を調べるために、蝸牛内リンパのカリウムイオン濃度を測定した。結果として、有意な変化が認められなかった。従って、蝸牛電位の低下は他の機構によると考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究では、SMS1-/-マウス難聴の機構を探索することを研究目的としており、当初幾つかの仮説を立てたが、期間内に解明されるとは限らない。しかし、この一年間の研究で、SMS1-/-マウス難聴の機構として、蝸牛血管条の萎縮と、その結果としての蝸牛電位の低下を明らかにした。蝸牛電位はカリウムイオンを有毛細胞への流入を促進させるため、その低下が直ちに聴覚感度の低下に繋がる。従って、昨年度の研究により、SMS1-/-マウス難聴機構の一端が解明されたと言える。
今後、SMS1-/-マウスの蝸牛電位の低下をきたす原因の解明にまず力点を置き、特に血管条内のイオンチャネルなどに注目して研究を進める。そして、昨年度の研究により、SMS1-/-マウスの難聴が低周波領域で起きる特徴を持つことが明らかになったため、難聴の周波数依存性の機構の解明にも焦点を当てて、研究を進める。
主に試薬と動物に使用するが、実験補助費や論文投稿費にも一部使用する計画である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
Eur J Neurosci
巻: 34 ページ: 1944-1952
10.1111/j.1460-9568.2011.07926.x
Neurosci Res
巻: 71 ページ: 103-106
Biochem Biophys Res Commun
巻: 407 ページ: 620-625
J Biol Chem
巻: 286 ページ: 3992-4002