研究課題
本研究代表者らがスフィンゴミエリン合成酵素SMS1欠損マウスが難聴を示すことを見出している。本研究では、その難聴の機構を探索することを目的としている。前年度までに、SMS1欠損マウス難聴の機構として、蝸牛血管条の萎縮と、その結果としての蝸牛電位の低下を明らかにした。蝸牛電位はカリウムイオンを有毛細胞内への流入を促進させるため、その低下が直ちに聴覚感度の低下に繋がる。従って、前年度の研究により、SMS1欠損マウス難聴機構の一端が解明されたと言える。今年度では、SMS1欠損マウスの蝸牛電位の低下をきたす原因の解明にまず力点を置いて研究を進めた。その結果、血管条辺縁細胞におけるKCNQ1チャネルの発現低下と、辺縁細胞における異所性発現が見られた。即ち、正常な辺縁細胞では、KCNQ1は細胞の頂極に非常に特異的に発現するが、SMS1欠損動物では、弱いながらその他の部位での発現も見られた。KCNQ1は蝸牛内リンパと血管条との間のカリウムイオン拡散に関わるため、その異常が蝸牛電位の低下に繋がると考えられる。一方、SMS1欠損マウスの難聴が低周波領域で起きる特徴を持つことをこれまで明らかにしてきたが、難聴の周波数依存性の機構は不明である。それを探索するために、様々な実験を行った結果、蝸牛先端部では、基底部に比べて、マクロファージを反映する染色像が多く見られた。このことは蝸牛先端部では酸化ストレスがより強くなっていることを示唆し、それにより、何らかの機構を介して先端部の機能、即ち低周波の聴力、の低下を招いたと考えられるが、その詳細は今後の研究を待たなければならない。これまでの研究成果をThe Journal of Physiologyに発表した。
すべて 2012
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The Journal of Physiology
巻: 590 ページ: 4029-44
10.1113/jphysiol.2012.235846
PLOS ONE
巻: 7 ページ: e46339
10.1371/journal.pone.0046339