研究課題/領域番号 |
23659798
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
湯本 英二 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 教授 (40116992)
|
キーワード | 脳・神経 / 喉頭麻痺 / 共同運動 / 反回神経 / 過誤神経支配 |
研究概要 |
実験にはWistar系ラット、メス8週齢を計45匹用いた。声帯運動が正常なことを確認した後、輪状軟骨下端から10mmで左反回神経を切断し即時に断端を11-0ナイロン糸で縫合、シリコンチューブで縫合部を被覆した (神経縫合群30匹) 。残る15匹は左反回神経を切断し断端を飜転して筋肉内に埋入した(脱神経群)。処置後、2、4、10週後に自発呼吸下の声帯運動、甲状披裂筋と後輪状披裂筋の筋電図検査、および両筋の誘発筋電図検査を行って声帯の共同運動と反回神経に含まれる神経線維の過誤再生を評価した。 脱神経群では処置後のどの時期でも15匹すべてが左声帯に可動性はみられなかった。神経縫合群2週後は左声帯運動がみられなかった。筋電図検査では放電がみられなかった。4週後は10匹中4匹で、10週後は10匹中2匹で左声帯の共同運動がみられた。これらの動物では後輪状披裂筋に比して甲状披裂筋の電位が大きかった。4週後の1匹、10週後の3匹では不十分だが正常声帯運動がみられた。これら4匹中2匹の筋電図検査で吸気時に後輪状披裂筋の電位が甲状披裂筋よりも大きかった。誘発筋電図検査でも脱神経群ではどの時期でもすべての動物で電位は誘発されなかった。神経縫合群では両筋とも経過とともに誘発電位の振幅が増大した。 神経縫合群30匹中20匹は声帯運動が回復せず、4匹で軽度の声帯運動が回復した。残る6匹で声帯の共同運動が生じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に引き続いて動物の個体数を増やして経時的に声帯運動の観察、自発呼吸時の筋電位、および誘発筋電図検査を行った。神経縫合群の20%の動物で共同運動を生じることが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った誘発筋電図を用いた過誤神経支配の定量化法(甲状披裂筋と後輪状披裂筋の誘発電位の比)は個体間におけるばらつきが大きく定量的な評価に応用できないことが分かった。過誤神経支配程度の新たな定量的評価法として、過誤神経支配が起こると正常では後輪状披裂筋に発現し甲状披裂筋にはみられない2A筋線維が処置側甲状披裂筋に発現するので、同筋の筋線維全体に占める2A筋線維の割合を計測することとしたい。 確立した動物モデルを用いて、処置後にCaチャンネル拮抗剤含有飼料で飼育し神経再支配が早く起これば過誤神経支配の程度が軽減するかどうかを検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
神経縫合群では20%の動物で共同運動の生じることが分かった。さらに高い確率で共同運動を起こすために、把持力の強い脳血管用クリップを用いて反回神経を傷害し、声帯麻痺発症後に声帯運動が回復するモデル動物を作製する。神経過誤支配の指標として、声帯運動の観察と甲状披裂筋における2A筋線維の占める割合を計測する。神経縫合群とクリップ傷害群の神経再生様式を免疫組織学的に評価する。具体的には、アセチルコリン受容体(α-Bungarotoxin)、神経終末(抗Synaptophysin抗体)、神経線維(抗Neurofilament抗体)、髄鞘(抗Myelin Basic Protein抗体)を染色し、筋内神経線維の再生と神経筋接合部の回復を定量的に評価して両群間で比較する。より効率的に共同運動が起こるモデルを用いて、処置後にCaチャンネル拮抗剤含有飼料で飼育し神経再支配が早く起これば過誤神経支配の程度が軽減するかどうかを検討する。 上記の研究遂行には多数の小動物、抗体が必要なので本研究費を用いて購入する。
|