8週齢Wistar系ラット計62匹を対象とした。神経縫合群(n=42)では左反回神経を切断後、端々縫合を行った。コントロールとして脱神経群(n=20)を作製した。処置の2、4、10週後に声帯運動の評価、甲状披裂筋・後輪状披裂筋の安静呼吸時における筋電図検査、および誘発筋電図検査および免疫組織染色を行った。声帯運動の評価では、吸気時に処置側声帯が内転するものを共同運動、外転するものを正常運動ありとした。免疫組織染色では筋線維のサブタイプの変化を評価した。 全ての脱神経群と2週経過後の神経縫合群においては、声帯運動・筋活動電位は認めなかった。4週、10週後の神経縫合群42匹中、10匹で共同運動を、8匹で弱い正常運動を認めた。これらのうち、共同運動の8匹、正常運動の5匹で筋電図検査を行ったところ、誘発筋電図では全例で複合筋活動電位を認め、神経再支配・神経筋接合部の再形成の起こっている事が示唆された。共同運動を呈した8例全例で吸気時に後輪状披裂筋よりも甲状披裂筋に優位なリクルートメントを認めた。弱い正常運動を呈した5例中2例では共同運動を示した動物と同様に、吸気時に甲状披裂筋が優位であったが、3例では後輪状披裂筋が優位であった。声帯運動を認めないものでは放電は認められなかった。以上から、神経縫合群では4週以降で神経再生、一部は過誤再生を生じ、その程度によって共同運動または弱い正常運動を呈するもの、および声帯運動を生じるだけの神経再生が起こらなかったものに分かれたと考えられた。共同運動の2匹、正常運動の3匹で免疫染色を施したところ、全ての動物で筋サブタイプの変化がみられるものの、特異的な変化はみられなかった。 Caチャンネル拮抗剤を投与することで再生軸索の伸長を促進した神経縫合群を42匹作製し同様に評価したが、非投与群と声帯運動に明らかな差はみられなかった。
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