心電図の高周波数QRS成分のroot mean square電位(RMS電位)解析による、小児開心術後の非侵襲的心機能モニターの開発を目的とした臨床研究を行った。研究期間中14症例で測定を実施、平均月齢は20.5ヶ月、平均体重は7.5kgであった。対象疾患は、心室中隔欠損症が7例、心房中隔欠損症とファロー四徴症が各2例、両大血管右室起始症、房室中隔欠損症と単心室症が各1例であった。術後完全房室ブロックに対して心室ペーシングを行った1例を除き、13例でRMS電位計測を行った。執刀前のRMS電位を基準値として、大動脈遮断解除後の電位を%RMS電位と算出して比較検討した。%RMS電位は、大動脈遮断解除後、心拍再開1分で基準値の22.4±12.4%まで低下した後に経時的に上昇、心拍再開後9時間で99.6±32.2%と術前値まで回復した。RMS電位の推移は、術中虚血時間や大動脈遮断解除後の心筋障害の指標としてのCK-MB値と連動して変化する傾向を認めた。また、心拍再開後24時間の%RMS電位は79.3±28.7%と9時間時の電位と比較して有意に低下しており、このような変化は、心拍再開後の虚血再灌流障害の影響を観察している可能性がある。本研究の結果、高周波数電位の経時的な推移は、心機能の回復および心筋障害の指標として利用できる可能性があり、小児開心術後の低侵襲心機能モニターとしての応用が示唆された。今後、さらなる症例の蓄積が必要と考えられる。RMS電位計測の問題点として、計測時の筋電図や医療機器が原因の高周波数ノイズやペースメーカー等の影響を受けやすく、計測値の解析に支障を来した。良好な電位波形を得るためのシステム開発が今後の課題と考えられる。
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