研究課題/領域番号 |
23659825
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 有平 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70271674)
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研究分担者 |
古川 洋志 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00399924)
小山 明彦 北海道大学, 大学病院, 講師 (70374486)
舟山 恵美 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (10533630)
林 利彦 北海道大学, 大学病院, 助教 (00432146)
齋藤 亮 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 非常勤講師 (70507574)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 創傷治癒 / ケロイド / 増殖因子 / サイトカイン |
研究概要 |
肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor、以後HGFとする)は肝星細胞や肺胞上皮細胞等の細胞でTGF-βに拮抗しコラーゲン産生や筋線維芽細胞への分化を抑制し抗線維化作用を有することが示されている。拮抗機序として、筋線維芽細胞のアポトーシス誘導、コラーゲン転写抑制、TGF-β発現抑制等が考えられている。HGFがケロイド線維芽細胞においてもTGF-β抑制効果を示すか検証した。 ケロイド線維芽細胞を種々の濃度のHGF、TGF-βの単独または同時投与下に一定時間培養し、細胞増殖、コラーゲン産生、TGF-β発現、α-SMA発現等をMTSアッセイ、ウェスタンブロット、リアルタイムPCR、ELISA等で評価した。TGF-β単独投与群ではコントロール(HGF、TGF-β共に非投与)と比較してコラーゲン産生、TGF-β発現、α-SMA発現が増加した。HGF、TGF-β同時投与群ではTGF-β単独投与群と比較してコラーゲン産生はHGF濃度依存性に抑制されたがTGF-β発現はRNAレベルでは明らかな抑制傾向を示さなかった。α-SMA発現は低下する場合もあり、個々の細胞の性質や実験条件をさらに検討する必要があった。MTSアッセイにおいてHGFのケロイド線維芽細胞増殖抑制効果は明らかではなかったが、培養時間や培養液中の血清濃度等の実験条件をさらに検討する必要があると考えられた。 当該期間においてHGFがケロイド線維芽細胞においてもTGF-βに拮抗しコラーゲン産生や筋線維芽細胞への分化を抑制する可能性を示すことができた。また、現時点までの結果からはHGFのTGF-β拮抗機序としてコラーゲン転写抑制の可能性が考えられた。得られた成果については各学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、HGFがケロイド線維芽細胞においてもTGF-βに拮抗しコラーゲン産生や筋線維芽細胞への分化を抑制すること、及びHGFのTGF-β拮抗機序の詳細を示すことである。本研究にて得られた成果を基に将来的なHGFのケロイド治療への臨床応用の可能性が萌芽することが期待される。本研究では初年度にHGFがTGF-βに拮抗する作用を有することを証明し、次年度にHGFのTGF-β拮抗機序の詳細を分子生物学的に明らかにすることを目標とし研究計画を立案している。 初年度の成果としてHGFがケロイド線維芽細胞においてもTGF-βに拮抗しコラーゲン産生や筋線維芽細胞への分化を抑制する可能性があることを示すことができた。また、現在までの結果からはHGFのケロイド線維芽細胞におけるTGF-β拮抗作用機序として少なくともコラーゲンの転写抑制の可能性が示され、次年度の研究計画に向け大きな利点を得ることができた。 よって、現在までの研究の達成度は概ね順調に伸展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当該期間においてHGFのケロイド線維芽細胞におけるコラーゲン転写抑制効果の可能性が示された。TGF-βが細胞膜上の受容体に結合した後の細胞内伝達経路やコラーゲン転写機構は過去の報告により明らかとなっており、TGF-βによって刺激されたSmad3が核内に移行しコラーゲン転写が促進される。HGFはこれらの経路の一部を抑制している可能性があり、他動物種、他臓器の細胞ではSmad7やGalectin7などのタンパクが関与するとされている。今後の研究推進方策の一つとしてまずHGFのケロイド線維芽細胞におけるTGF-β抑制機序を示すことを予定している。すなわち、ケロイド線維芽細胞におけるHGFによるSmad3の核内移行抑制効果を示すことである。具体的には細胞免疫染色によるHGF刺激前後のSmad3の核内外への移動の有無の検証や、Smad7やGalectin7などのタンパクをsiRNAや抗体にて抑制した状態でのHGFによるコラーゲン産生抑制効果の有無の検証である。 また、当該期間にHGFが線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を抑制する可能性も示したが、元々の細胞の性質、ケロイド線維芽細胞と正常皮膚線維芽細胞との間でのHGFに対する感受性、反応性の差異等を引き続き検証する必要があり今後の研究推進方策の一つとして挙げられる。その他、当該期間に明らかとならなかった作用機序としての、筋線維芽細胞のアポトーシス誘導、TGF-βの発現抑制等の成立の有無も引き続き検証の予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
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