本実験の基礎実験として市販のRT97は正常軸索、再生軸索、変性軸索全てを標識するのに対し、共同研究者の五十嵐らが開発したp-GAP-43は再生軸索のみ標識するという特徴が判明した。神経端側吻合は、神経修復術として常用されるがドナーとなる神経の神経上膜や神経周膜への吻合前処理の影響は議論が定まっていない。 術後7日目に灌流固定し、標本を作成。抗ニューロフィラメント抗体、市販のRT97および、研究協力者の五十嵐らが新たに開発した抗リン酸化GAP-43抗体、p-GAP-43で免疫染色を行い、観察、解析を行った。 本実験では20匹のラットをもちい、尺骨神経の神経周膜や神経線維への処理方法の異なる4つのグループを作成した。グループ1は神経周膜を開窓せずに端側吻合。グループ2は神経周膜の開窓のみ行い、そこに端側吻合。グループ3は神経周膜を開窓して膨隆してきた神経の中心に圧挫損傷を加え、そこに端側吻合。グループ4は神経周膜を開窓して膨隆してきた神経の中心を切断し、そこに端側吻合した。術後7日目に灌流固定し、標本を作成し、免疫染色した。 その結果、神経周膜は連続するシート状の細胞層であるため、再生軸索がこれを貫いてレシピエント内に伸びてにくく、神経周膜が開窓されると内圧により神経が一部脱出し、その表層では軸索の脱髄と変性がおこり、再生軸索の発芽を招く。その点で神経周膜の開窓は重要と思われた。グループ4は神経線維が断裂し、神経内膜、シュワン細胞の基底膜の連続性が絶たれているので、外見は端側吻合でも内部は端々吻合の状態であり、より多くの軸索が伸びていったと考えられた。 本実験の結論として、新しく開発された抗p-GAP-43抗体は再生軸索の識別に有用である事が明らかになった。神経端側吻合には神経周膜の開窓が必要であり、意図的なドナー神経の損傷はレシピエント神経への再生軸索量を増加させる事を明らかにした。
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