ケロイドは、主に創傷治癒の過程において発症する皮膚線維増殖性疾患である。ヒトにしか発生せず、適切なモデル動物が存在しないことが、ケロイド研究の大きな障害となっている。本研究の目的は、Spontaneous cell sortingという技術を用いることにより、ヒト化マウスとして知られている超免疫不全マウス(NOGマウス)の背部にケロイド由来のヒト再構成皮膚を作製することである。 我々は、正常皮膚、正常瘢痕、ケロイドの患者から、それぞれ皮膚線維芽細胞と角化細胞を初代培養・継代した。患者ごとの皮膚線維芽細胞と角化細胞の懸濁液を、NOGマウスの背部に装着したダブルチャンバー内に移植することにより、ヒト由来再構成皮膚を作製した。移植後12週で作製された再構成皮膚を切除して、組織学的な解析を行った。 その結果、正常皮膚・正常瘢痕由来再構成皮膚は、ほぼヒト正常皮膚と同様の外観であった。一方、ケロイド由来再構成皮膚は、拘縮を伴う肥厚した硬結を形成し、組織学的にもケロイドとの類似を認めた。しかし、周囲の皮膚への浸潤傾向は認められなかった。 本研究により、ケロイド由来細胞は、硬結を形成するというケロイドの形質を長期間維持することが示された。一方で、周辺皮膚へ浸潤するというケロイドの形質には、線維芽細胞・角化細胞以外の細胞やヒト特有の微小環境が関与していることが示唆された。 本モデルの特徴は、移植の際にケロイド由来の三次元的な細胞外基質や人工のscaffoldの持ち込みがないことである。そのため、作製された再構成皮膚は、移植細胞と移植細胞由来の細胞外基質のみによって形成されている。本モデルは、ケロイド由来細胞を用いてヒト以外の動物でケロイド状組織を再現した初めてのモデルといえ、今後のケロイド研究に有用であると考える。
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