本研究では発生初期の多能性をもつES細胞またはiPS細胞を活用して、目的とする培養細胞の老化を防止し、細胞の若返りを目指した。ヒトiPS細胞をfeeder細胞として使えるかをまず検討した。継代時に細胞をばらばらにすると細胞の接着力が低下してしまい、ROCK阻害剤を加えることである程度克服はできたが、細胞数を揃えて定量性を持たせることが困難であった。またマイトマイシンCの添加により、iPS細胞の増殖を抑制すると細胞にダメージを与えることが判明した。そこで次に細胞融合法を検討した。マウス毛乳頭細胞は培養すると毛包誘導能が低下することが知られているので、ES細胞と毛乳頭細胞を融合させて、増殖促進や毛包誘導能の維持が認められるか検討した。ポリエチレングリコール法やセンダイウイルス法を用いて細胞融合実験を行い、フローサイトメーターでDNA含有量を指標にして融合率を検討すると、前者では融合率が10%以下で、後者の方が50%以上であった。細胞融合後にES細胞の培地するとES細胞の未分化マーカーの発現が維持されてES細胞の機能が維持されていた。一方毛乳頭細胞の培養条件にすると、融合した細胞は元の毛乳頭細胞と比較して明らかな増殖促進作用は認められなかった。細胞融合後にバーシカンなどの毛乳頭細胞の一部の遺伝子発現が維持されることを確認したが、細胞移植による発毛実験においては明らかな毛包誘導能の維持を示唆する所見は得られなかった。以上よりES細胞と他の細胞を細胞融合するとES細胞様にはできるが、元の細胞の機能を強化するのは容易でないことが示唆された。
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