研究課題
ヒト約900種のmiRNAアレイを用いて、親株と高浸潤能を有する細胞のmiRNAの発現を網羅的に比較検討した結果、高浸潤能を有する細胞で発現低下していたmiRNAとして、miR-200 family(miR-200a, miR-200b, miR-200c, miR-141)とmiR-203を同定した。そこで、我々が有している口腔癌細胞株におけるmiRNAの発現をreal-time PCRにより検討したところ、EMT(上皮間葉移行)をおこした癌細胞でのみ発現低下がみられた。miR-200 familyの発現低下がE-cadherinの発現低下を介して、EMTに関わることはすでに報告されているため、miR-203に着目し、浸潤やEMTへの関与について検討した。miR-203の発現のない癌細胞に、内在性の成熟miRNAの機能を模倣したmiRNA mimicを導入し、癌細胞の浸潤への影響を検討したところ、浸潤が抑制された。また、miR-203の発現の高い癌細胞にmiRNA inhibitorを導入し、その発現を抑制したところ、癌細胞の浸潤が促進されたことから、miR-203は、口腔癌の浸潤に深く関わることが明らかとなった。また、EMTへの影響についても検討したところ、E-cadherinの発現変化はみられなかったが、細胞の形態や他のEMTマーカーであるvimentinの発現変化がみられた。そこで、miR-203の標的mRNAを同定するため、Ago2抗体を用いて、標的mRNAを含めたRISC複合体を免疫沈降し、その産物をマイクロアレイを用いて網羅的に解析した。多くのmRNAが同定できたが、浸潤やEMTに関わる標的mRNAを同定するため、既存のデータベースや成熟miR-203あるいはmiR-203 inhibitorを導入した細胞での発現動態を検索し、現在、絞り込んでいるところです。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、おおむね順調に進展したが、標的mRNAの絞り込みに時間がかかったため、miR-203の標的mRNAの同定まではできなかった。
次年度は、網羅的に絞り込んだ標的mRNAに対して、これら標的mRNAが浸潤にかかわるかどうかを標的mRNAのsiRNAを合成し、癌細胞へ導入することにより浸潤への関与をマトリゲルを用いたin vitro invasion assayにより解析する。また、ルシフェラーゼアッセイにより、miR-203と標的mRNAの結合を検討する。さらに、口腔癌症例の組織から抽出したtotal RNAを用いてmiR-203とその標的mRNAの発現をreal-time PCRを用いて定量的に解析し、臨床病理学的データより癌の浸潤動態や転移との相関を調べるとともに、標的mRNAの抗体を購入あるいは作製し、口腔癌症例のパラフィン包埋切片を用いてその発現を検討し、臨床病理学的データより癌の浸潤動態や転移との相関を調べる予定である。
次年度は、miR-203の標的mRNAの浸潤への関与やルシフェラーゼ解析のための試薬を購入する。また、miR-203の発現を臨床材料を用いて解析するための、microRNA抽出キットや抗体などの発現解析関連消耗品を購入する予定である。また、研究成果を発表するための日本癌学会への参加費用でも研究費を使用する予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
PLoS ONE
巻: 6 ページ: e25438
PMID: 21998657
J Cell Biol.
巻: 193 ページ: 409-424
PMID: 21502362