研究課題/領域番号 |
23659861
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
古玉 芳豊 岩手医科大学, 歯学部, 非常勤講師 (70398486)
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キーワード | S. anginosus / AID / 歯肉上皮細胞 / 口腔癌 |
研究概要 |
B細胞の遺伝子に変異を誘導する酵素AIDは通常B細胞でしか働かないといわれているが,近年,Helicobacter pylori 感染マウスの胃粘膜上皮細胞等で過剰発現していることが明らかとなり,感染発癌にAIDの異所性発現が関与していることが示唆されている.本年度は,Streptococcus anginosusの口腔癌発症機序へのAIDの関与を明らかにする目的で,S. anginosus菌体および菌由来生理活性物質SAAの口腔上皮株化細胞あるいは初代培養歯肉上皮細胞へのAID発現誘導について検討した.さらに,S. anginosus SAAの同定とその遺伝子クローニングを行った. その結果, 1. 歯肉上皮細胞および株化細胞におけるAID遺伝子発現は,それぞれの細胞からRNAを抽出し,サイバーグリーンを用いたリアルタイムPCRで解析したところ,S. anginosus菌体およびSAA刺激した細胞でAID遺伝子の発現が有意に高かった.さらに,それら細胞におけるAIDタンパク質の発現をSDS-PAGE後にウエスタンブロッティングで解析したところ,SAA刺激により歯肉上皮細胞でAID発現の誘導が認められた.これらの成績から,S. anginosusは口腔粘膜上皮細胞,上皮細胞株に対してAID発現を誘導する可能性が明らかとなった. 2. SAAの同定はS. anginosus培養上清からSAAを二次元電気泳動で展開し,特異抗体との反応が認められたゲルスポットをMS/MS解析した.その結果,同スポットはS. anginosusの既存タンパク質と同定された.ゲノムライブラリーから本遺伝子を同定し,PCRで増幅した遺伝子DNAを発現ベクターにクローニングした.大腸菌XL1-blueにトランスフェクトし,GST融合タンパク質としてリコンビナントタンパク質の発現に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,前年度よりの継続課題としてヒト上皮細胞株および歯肉上皮初代培養細胞からのAID発現についての検討を行い,23年度に確立した検出方法,すなわち,リアルタイムPCRによりAID遺伝子の発現量を,またウエスタンブロッティングによりそのタンパク質の発現解析を行い,SAA刺激による歯肉上皮細胞でAID発現の誘導を認めた. さらに,24年度以降の実験計画のうち,S. anginosus菌由来生理活性物質SAAのクローニングならびにリコンビナントタンパク質の発現については,精製SAAを二次元電気泳動後,特異抗体と反応するスポットをMS/MS解析したところ,既存のS. anginosus由来タンパク質と同定された.遺伝子解析をゲノムライブラリーから行い,本遺伝子の増幅DNAを発現ベクターにクローニング,さらには大腸菌を用いたリコンビナントタンパク質の発現にも成功した. 従って,現在までの達成度としては,24年度に予定していたSAA欠損株の作製を除いてはほぼ当初の計画通りに進んでおり,おおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところおおむね順調に進展しているので,本研究課題の今後の推進方策として,25年度は,昨年度からの検討課題としてS. anginosus菌由来抗原であるSAAの欠損株の作製を行う.すなわち,カナマイシン耐性ベクターをSAA遺伝子の500 bp 前後の領域に挿入し,エレクトロポレーション等でベクターを導入し,相同組み替えによりS. anginosusの形質転換を行う.さらに,昨年度作製したリコンビナントSAAを用いてその生物活性について,マクロファージ系の細胞株あるいはマウス腹腔滲出細胞等を用いてNOや炎症性サイトカイン産生を検討する.また,S. anginosus菌体の細胞付着・侵入性を検討し,上皮細胞への変異誘導が細胞内からも起こるかどうかについての可能性を検討する. さらに,初年度からの課題である癌組織からのAID遺伝子発現およびp53遺伝子変異の検出については,検体数を増やし継続して検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度研究費直接経費予算額は711,497円となる予定であるが,次年度研究実施計画のうち,S. anginosus菌由来抗原であるSAAの欠損株作製にベクター,酵素試薬,生化学試薬代として300,000円,SAAの生物活性測定のためのキット類,細胞株,実験動物他消耗品代として300,000円を使用する.さらに,癌組織および培養細胞からのAID遺伝子発現に関する解析では,酵素試薬,プライマー,リアルタイムPCR用試薬,プラスチック類,培地代として111,497円を使用する予定である.
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