培養条件の特殊性により通常の培養法では取得が困難な常在菌を高効率に取得する目的で、多孔性中空糸膜を使ったヒト口腔内で使用可能な口腔バイオフィルム細菌培養装置を開発し運用した。具体的には、被験者の口腔からデンタルフロスで採取したデンタルプラークを生理食塩水に懸濁し、それを低融アガロースゲルに加えて撹拌することで直径30~50μmのアガロースゲル粒子中に1個の菌体を含むように調製した。この微小ゲル粒子をアルジネートゲルと共に多孔性中空糸に封入したものを培養器とし、これを床装置またはマウスピース型に成形した熱可塑性樹脂に組み込んだ。ゲル粒子に包埋された菌体は培養器の外に出ることができないが、菌の生育に必要な物質は中空糸膜を通して内部に供給可能となっている。被験者には、この培養装置を食事や歯磨き時以外、可及的長時間、口腔内に装着してもらい、口腔バイオフィルム細菌を元々棲息していた環境に近い条件で培養した(1次培養)。1次培養の後、取り出した微小ゲルを2つに分け、それぞれを寒天平板培地にて嫌気または好気下で2次培養し、1次培養を経ずに平板培地で培養した場合と培養効率および菌種の多様性を比較した。培養効率は平板培地に播種した菌数に対する生育コロニー数の割合によって、多様性は培地上からランダムに拾った菌株の16S rRNA解析によって評価した。1次および2次培養の条件を変えつつH23-24年度に4人の被験者(20代、男性2名、女性2名)で計20回の口腔内培養実験を行った。 本装置を用いて口腔バイオフィルム検体を口腔内培養した場合、同じ検体を平板培地で通常培養した場合に比べ、より高い効率での培養が可能であった。しかし、取得した菌株の新規性と多様性については、本装置を用いた口腔内培養の優位性は見られなかった。新規性の高い菌株の取得には、本培養システムの更なる改良が必要である。
|