歯牙を支える顎骨の骨量の維持においては、メカニカルストレスの作用と共に骨形成を促進するシグナルの存在が必須と考えられる。顎骨における適切なメカニカルストレスの存在は、骨量の維持と共にインプラント等の土台を確保する上での重要性がある。本研究においては、メカニカルストレスに応答性の陽イオンチャネルであるTRPV4に着目した骨芽細胞におけるその発現の検討を行った。TRPV4の発現は骨芽細胞の分化と共に上昇し骨芽細胞分化培地におけるアルカリホスファターゼの上昇と相関を示した。さらに、その要因となるサイトカインの検索によりBMP2がTRPV4の遺伝子発現を促進し、さらには、これが転写性の制御によるものであり、新たなタンパクの合成を必要とする過程を必要とすることが明らかとなった。TRPV4の選択的なアゴニストである4αPDDは骨芽細胞におけるTRPV4の活性化をもたらし、これによってカルシウムの細胞内におけるオシレーションを誘導した。このカルシウムオシレーションの誘導は、細胞の分化レベルに相関することが明らかになった。次にメカニカルストレスとしての細胞への液流動の刺激を行った結果、TRPV4の存在に依存して細胞内カルシウムのオシレーションのシグナルがメカニカルストレスによって誘導されることが明らかとなった。これに対して、TRPV4の欠失した動物からの骨芽細胞においては、液流動に応答するメカニカルストレス依存性のカルシウムオシレーションの低下が観察された。また、メカニカルストレスの応答性の受容体であるβ2アドレナリン受容体は副甲状腺ホルモンによる骨量の増加作用において、その存在が必須であることが見出された。以上の観察はメカニカルストレスの感知におけるTRPV4の役割とこれに関連するβ2アドレナリン受容体の副甲状腺ホルモンのアナボリック作用への関わりを明らかにしたものである。
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