研究課題/領域番号 |
23659870
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
米田 俊之 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (80142313)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 骨転移 / 微小環境 / 乳がん |
研究概要 |
がんの骨転移成立過程においては、転移がん細胞と骨微小環境との生物学的クロストークの重要性が認識されている。このクロストークの実体を分子レベルで理解することを目的に、GFPを安定発現させたMDA-MB-231細胞をヌードマウスの左心室(HI)および脛骨髄腔内(TI)に接種し、骨環境にがん細胞を定住させた。骨転移巣よりGFP陽性のがん細胞のみをFACS Ariaを用いて培養せずに分離し、マイクロアレイ解析を行った。乳腺接種(SC)した乳がん細胞をコントロールとした遺伝子プロファイリングの結果、SC群と比較して発現量が2倍以上に上昇した遺伝子がTI群で226個、HI群で1382個同定され、両群に重複する158個の遺伝子を骨微小環境とのクロストークによって発現が上昇する遺伝子として同定した。これら158の遺伝子を機能別に分類し、特に発現量の高かった遺伝子群を骨とがん細胞のクロストークに関わる遺伝子としてクローニングした。その内訳は、転写因子としてFoxC1、Dec1、NR4A3、分泌タンパク質としてEREG、接着因子としてPCDH10B,ITB5、細胞遊走に関与する遺伝子としてNEDD9である。これら遺伝子群の中からNEDD9に着目しさらに検討を行ったところ、免疫染色により骨転移巣においてNEDD9の強い発現が認められ、またshRNAによるNEDD9のノックダウンは骨転移を有意に減少させる一方で、NEDD9の過剰発現は骨転移を増加させた。これらの結果より骨組織で発現が上昇するNEDD9は乳がんの骨転移成立・進展に関与すること示唆された。本研究で用いた遺伝子プロファイリングにより骨-がん細胞のクロストークに関与する遺伝子の同定が可能となり、これら遺伝子の役割解析は骨転移の分子標的治療の開発に寄与すると期待される
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロアレイ解析では、数多くの遺伝子の中から生物学的意義の高い遺伝子を絞り込む作業が最も困難であり研究者の経験や知識が重要となる。興味深いことに本研究でクローニングした遺伝子の一つであるNEDD9は様々ながん細胞の転移に関与する因子であることが明らかになりつつある上に、我々の呼び実験においても骨転移への関与が推察された。これらの結果は本研究によるアプローチが有効であることを示しており、研究がおおむね順調に進行しているとして評価できる点である。そして、本研究で用いた遺伝子プロファイリングにより同定された遺伝子の解析は骨転移の微小環境に基づく分子標的治療開発に寄与すると期待されることから、将来的には学術的のみならず臨床的にもインパクトのある結果が得られる可能性を有している。本研究では骨転移巣からなるべく細胞へのダメージを少なくしながらがん細胞のみを分離回収するための条件設定に労力を費やした。さらに、がん細胞は組織を破壊しながら増殖するため、がん細胞の増殖によって骨組織の破壊が進行した場合には骨組織が持つ生物学的特異性が失われる可能性がある。一方で、腫瘍が小さいときはマイクロアレイ解析に用いるがん細胞が少なすぎるため適正な解析結果を得ることができない。これらの点を考慮し、様々な条件設定を試した結果、マイクロアレイ解析に用いる十分量を得ることが可能な実験プロトコールを確立できた。本研究はマイクロアレイ解析を行うことが最も重要かつ時間のかかる研究段階であることから、マイクロアレイ解析を1年目で終えることができた点で、本研究は当初の計画以上に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行った遺伝子プロファイリングにより同定された遺伝子群を発現上昇率の高さおよび機能別分類から、(1)細胞接着因子としてプロトカドヘリンbeta10(PCDHB10)およびIntegrin beta5(ITB5)、(2)分泌タンパクとしてEGFファミリーに属するEpiregulin(EREG)、(3)転写因子としてDEC1および核内受容体NR4A3、(4)細胞遊走に関与する因子としてNEDD9を絞り込んだ。転移癌細胞は骨環境においてこれらの遺伝子発現が増加することにより、何らかの癌細胞特性を得ていると推察される。現在、骨転移過程におけるこれら遺伝子の機能的役割について検討を開始しているところである。具体的には、免疫染色法による発現の確認、レンチウィルスによる過剰発現またはshRNAによる遺伝子ノックダウンが骨転移に及ぼす影響、また癌細胞特性への影響などについて検討する予定である。本研究では、可能な限りIn Vivoでの解析を行うために、骨転移の定量的評価はルシフェラーゼ遺伝子を用いたin vivo発光イメージングにより行う。 そして最終的には本研究により得られた結果を統合的に理解することにより、骨転移を制御する骨微小環境と癌細胞の生物学的相互関係を明らかにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。スクリーニングは平成23年度で終了しているため、次年度はスクリーニング以外の生化学的解析や動物実験に用いるヌードマウスの費用を計上している。具体的には、クローニングされた遺伝子の生物学的役割の解析を行うための遺伝子工学キット、また骨転移への影響を検討するために用いるshRNAプラスミドやレンチウィルスシステムなどの物品費を中心に研究費を使用する。そして、骨転移の定量的評価はルシフェラーゼ遺伝子を用いたin vivo発光イメージングにより行うため、In Vivoで用いること可能なルシフェリン(ルシフェラーゼ基質)の購入に研究費を使用する予定である。得られた研究結果は、日本骨代謝学会およびアメリカ骨代謝学会にて研究発表を行うための旅費も計上している。いずれの学会もトップレベルの学会であり、特にアメリカ骨代謝学会は世界中から骨代謝研究の主要な研究者が集まる学会であることから、アメリカ骨代謝学会に参加することにより得られる研究上のメリットは大きい。研究の進行状況によって学術論文を完成させ、英文誌に投稿する予定である。その際の英文校正添削費用として100,000円を計上している。
|